遊園地以外での関係は無かったため追いかけようがない

また次の夜に訪れる事にした




「いない、か…」




普段ならとっくに観覧車前にいる時間

そこにナツキはいない



昨日、はっきりと自分の気持ちを言わなかった後悔が押し寄せる



アトラクションのネオンが輝く中、ただひたすら観覧車の前で待った




2時間が経っただろうか、不運な事に、雨が降り始める

濡れて冷える体。
回り続ける観覧車に、ふらりと乗り込んだ

そこで立ち尽くすと、いきなり涙が溢れる






(ああ、俺って)



(こんなに、ナツキが好きだったんだ)







好きだった

それに変わりはない

ただ、失って更に気づく大切さがある



いつもそこにあったはずの物が無い事が、ここまで辛いとは




考えているうちに観覧車は一周し、終わりを迎え

雨になり人が少ない事と、暗いのを良いことに、観覧車にそのまま乗っていた






一度開いた扉が再び閉まる瞬間、

誰かが、俺1人だけのはずの観覧車に、乗り込んだ



「え、」

「なんで、トウヤさんが、泣いてるんだ…」


「ナツ、キ」



待っていた人物が現れたというのに、動揺が隠せない

俺が一周している間も外に立っていたのか、全身ずぶ濡れのナツキ



「もう来ないつもりでした。好かれていないのなら、迷惑ならと思った」

「…………」

「けど来てしまったんです。でも出ていく勇気がなくて、不安で。

トウヤさんが来た時、すぐにでも飛び出していきたかった……けど、駄目だった」

「うん、」

「トウヤさん、ずっと待ってる。なんで私のためなんかに、雨に濡れてまで待ってるんですか。

なんで今、泣いてるんですか………っ」

「ナツキに会えないのが苦しかった」

「嫌だ、やめてください!私だけが好きで、トウヤさんは好きじゃないのに、これ以上………」



「違うよ、そんな訳ない。」




隣に座らせて、思いきり抱きしめた

濡れてはいるが暖かいナツキの体は、微かに震えている



「離し、て…」
「………離していいの?」
「トウヤ、さ、……お願い、やめ、」

「昨日、好きって言わなかったから?」

「…………っ!!!」



無理に逃げようとするナツキを離すまいと力を込める



「おねがっ、トウヤさ………っ…」

「昨日みたいに、逃げるの?」

「それは、………」

「昨日、ナツキが逃げたから、言えなかった事があるんだ」



抵抗が止まる



「だから、逃げないで」
「……………」

黙りこんで、
動かなくなる

震えは止まっていない



「俺は、ナツキが好きだよ」
「………、う、そ」

「嘘じゃない。
ナツキは昨日、なんて言った?」

「…好きって、言って、って」

「嘘でも、いいから」


俺はそれに、カチンときたんだよね

意地悪したのも

そのせいなんだ


「好きだって事、嘘じゃないから」

「なにそれ、………キザ、すぎ、………」
「うるさいな」
「私、はっ………トウヤさんの事本気で、好きでっ、」

「知ってる」

「……うぇっ、……泣いて、ないです………っひぐ、……バカぁ………………っ!」


泣きじゃくるナツキ

昨日、無表情で「嘘でもいい」なんて言い放ったのが嘘のように、素直な姿


抱きしめながら頭を撫でると、俺の肩にすがりつくようにして泣く



「ナツキ……」



ふと気づくと、俺の目にも涙が溜まっている

先ほどの涙は止まっていたはずが、今日で2度も泣いてしまうとは




「トウヤ、さん…?」

「泣かせたかった訳じゃないんだ。
昨日、手を出さなかったのは、体だけの関係のままが嫌だったから」

「え、?」

「でもそれを、俺がナツキに飽きたからだなんて言うから。」

「不安、だったんだ……っ!……私は、居ても居なくても変わらない存在なんじゃ、って思って……!」

「そんな訳ない。ナツキは、俺にとって、大切な存在」



「…ふ、……ふ、えぇ゙っ……ひ、く…、…ぅえ、っ……」

「ナツキ、ごめん。
来てくれてありがとう」

「ト、ヤさ、…………っ、……わた、し、………ごめんな゙さ…っ…………」



ナツキの溢れる涙をぬぐってやる

昨晩も泣いたからか、目は腫れていて真っ赤だ。




観覧車の薄明かりの中、慰めるようにキスをする




「んふ、うっ………、ふぇ、っく…………」


唇から伝わる吐息と、濡れた体に張り付く衣服


「風邪ひくね、こんな格好じゃ」


濡れた胸板になぞるように触れると、ぴくんと反応する


「……俺さ、さっき思ったんだ。ナツキの事、なんにも知らないなって」

「何を、いきなり」

「ナツキの家、行っていい?1人暮らしだよね、確か」

「それって………」


いきなり顔を真っ赤にするナツキ

嬉しいのか恥ずかしいのか、焦るように目線が泳ぐ



「いや?」
「や、別にっ……嫌、じゃ…………」

「じゃ、行こ」


嫌と言うわけが無いと思いながら聞く俺は、また意地悪なのか


いつの間にか終わりの近づく観覧車は、ゆっくりと終点に到着する



「雨、止みませんね」

「まだ酷くなりそうだ。ほら、」

そう言って帽子をナツキに被せてやると、慌てて突き返そうとする


「トウヤさんが、濡れるじゃないですか!」

「別に良いよ。
それにこの雨じゃ、帽子の1つ2つじゃ変わらない」

「で、でも……」

動揺して顔を赤くする


「な、なんか……これって、普通の……………………、みたい………なんて」

「え、何みたいって?」

ぼそぼそと何かをいうナツキ
その顔は真っ赤だ


「や、その………普通の、こっ、恋人同士みたい、だな………なな、なんて。」

「恋人同士?」

「ご、ごめんなさい!勝手に……」


「え、違うの?」


「はい?」




恋人同士で、いいじゃん

当たり前のように言うと、ナツキは帽子をぎゅっと握りしめ目を見開いた



「だめ?」

「よ、よく平気でそういうこと……」



俺の帽子を強く抱きしめてうつむくナツキ

帽子、やっぱ意味無かったな。








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