次の日も遊園地へは
夜に行った。



もしや、いないのではと不安になったがナツキはそこにいて、普通に勝負をして、普通に観覧車に乗った

いつものまま、変わらない流れが逆に違和感を感じる






風で揺れた観覧車に怯えながら笑うナツキ

そんな素振りこそ見せないが、昨日の今日だ。


絶対何かを隠している。




― そっちが普通通りにして隠そうとするなら、
こっちが普通じゃなくしてやればいい





「ナツキ、隣に来て」

「え?でも、……立つの、…怖い……」

「じゃあ俺が行くよ」

「あ、ゆっくり…!」


ゆっくりと最低限揺らさないように移動する

そっと隣に座りナツキの手に触れると、ピクッと反応するこの反応は、期待しているのか怯えているのか

俺はそのまま、ナツキの手を強く握り締めた



「トウヤ、さん?」

いつもならこのまま押し倒すか脱がすかだ




今日はあえて、

何もしない


「…トウヤ、さん?」

「んー?」

「や、なんでも、ない……」


握りしめた手がやり場を無くしてもぞもぞと動く

うっすらとした明かりの付いた観覧車の中、そんなナツキの温もりを感じながら目を閉じた





― ああ、落ち着く






終点に近づくほど、閉じた瞼から透けるイルミネーションは明るくなる

目を開け、ナツキの方を見ると顔をそらされた



「……着いたよ」
「…………………」



無言のまま俯く

昨日と同じだ




「ナツキ、ほら、降りよう」

「…………や、だ」

「え?」


「……いやだ……っ!」

「うわっ!?」


ナツキは、トウヤの腕をぐいっと引いて観覧車の中に戻した

扉が閉まり、また観覧車は回り始める



「……な、ナツキ?」

「嫌だ………っ
もう、こんなの、…………………」



トウヤを掴んでいた腕が、ブランと垂れ下がる



「落ち着いて、座って?」

ナツキの肩を掴む

その時、強い風が観覧車を揺らした



「う、わぁっ!?」

驚いたナツキがトウヤにのしかかり、バランスを崩した体は椅子に崩れ落ちる


「いって……大丈夫?」

「……ごめな、さ…っ…………私…………」



震えてトウヤにしがみつくナツキ


「ナツキ、どうしたの。言わなきゃわかんないよ」


そう言った俺をじっと見て、ナツキは俺の上着の襟を思いきりつかんで引っ張り、


自分の方に引き寄せて、キスをした




「…ナ、ツキ……?」

「トウヤ、さん……、
私は、トウヤさんにとって、どんな、存在なんだろう?」


「俺にとって?」



ついさっき触れた唇が震えている



「わからないんだ、トウヤさんのことが………もう、何も、考えても考えてもわかんない……………っ」


俺の膝に顔をうずめて、すがり付くように訴える



「今日だって、トウヤさんは、何がしたかったんですか…っ!、
………トウヤ、さん、は、……」

「今日、は」


やっぱり気にしていたのか。


今までのように、ただ体だけの関係だった事を否定するかのように振る舞った

それを、ナツキはどう受け止ったのか



「……トウヤさ、…トウヤさんは、私のこと、」

ナツキの、事?


「……もう、必要ないん、ですか?」


「……………え?」


「飽きたん、ですか?

…昨日、私があんな態度とったから、嫌になったんですか、…………?」



待て

待て待て待て



全く俺の考えとは逆方向に突き進んでしまっているらしいナツキ



「ちょっと待って、ナツキ?」

「嫌だ、私は、…トウヤさんを待ってばかりで、」

「そんな事ない。
ね、聞いて、」

「いや、聞きたくない、怖いんです。
トウヤさんごめんなさい、嫌わ、ない、で……」

「ナツキ…」


混乱してしまっているんだろう、耳をふさいで顔を上げないナツキ


「…ナツキ、お願い、もっかいキスして」

「…………え、」

「お願い。」



顔を上げ、迷ったように目を泳がせる

外を見ないようにしてゆっくり俺の隣に座ると、目を見ずに、唇を合わせてきた




すぐに逃げようとしたナツキを座席に押し倒して、さらに深くキスをする

大きく揺れた車内に体を強張らせる



「っひ、……んん、ふぁ………っ…」



舌で唇を押し開け、唾液を絡ませると、狭く静かな車内に水音が響く


「ん、ふ、………」

「…ナツキ………」


唇を離すと、息を乱して惚けるナツキ



「ト、ヤ、さん……」

「ん?」

「……好きです。

今みたいに、関係はキスだけでもいい、いなくならないで……」



無表情でそう言い放ったナツキの顔に、ボウッと涙が浮かんだ



「…ナツキ、泣かないでよ」

「…泣いてない」

「体だけの関係が嫌なんじゃないの?
だから泣いてるんじゃないの?」

「……………な、で、そんな事…………、……言うんです…………」


嗚咽を漏らすナツキ

なんで、だなんて
そんなこと


「う、…ぇっ……………ひっ、ぐ、」

「…泣かないで、お願い。
俺、ナツキを、泣かせたかった訳じゃないんだ」

「好きって、言ってください………嘘でもいい」

「それは、無理」


少し驚いたあと、悲しそうに笑った



無理だよ。


そんな、嘘でも、
なんて言われて、言えるほど簡単な気持ちじゃない



俺は、本気で……





「ですよ、ね………ごめ、なさ………」
「ね、」
「あ、そろそろ、下に着きますね……、2周もさせちゃって、ごめんなさい……」

「ナツキ!待って、」



「すみません、じゃあ」



扉が開いた途端、逃げ出すように走り出した



「ナツキ!!」



振り返らない後ろ姿を、ただただ呆然と見送った










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