『嫌だ。私行きたくない。』
「だが午後授業が入っていないのは貴様だけだろう。」
『カルエゴが行ったほうが喜ぶよ』
「私は家庭訪問の時に会ったからな。次は貴様の番だ。」
職員室にて、同期のカルエゴと言い争う事数分間。
同じく同期のシチロウも居るが言い争う私達の間でほのぼのお茶なんか飲んでる。外野だから関係ないって感じがムカついた。こっちは行きたくなくて必死なんだぞ。
ちなみに説明するとこの三人は、腐れ縁が重なって一緒に仲良く先生になってしまった元同級生同士だ。
『シチロウ行ってよ。』
「僕も午後授業あるから…」
『私が変わりに出る』
「貴様は占星学専門だろ。」
『とにかく嫌だ…家庭訪問のときのカルエゴの話聞いたら同じ目にあう…』
事の発端は、月末までに理事長から承認を貰わないといけない件が放置されていたのが問題だった。
職員同士の引き継ぎが上手くいかなかったせいだった。それが発覚し今日中に必ず承認を貰いにいかないといけなくなったのだ。
そして理事長は本日もうお帰りになられてしまった。焦った職員一同。申し訳ないが理事長宅へ向かいサインをして貰おうということになったのだが、私が行くことになってしまったのが不服だった。
理事長の家。つまりはあのオペラ先輩がいらっしゃる。
バビルスの生徒だった頃、私とカルエゴをいつもいつもパシリにしていたあの、オペラ先輩。
行くのが嫌に決まってるだろ。
「サイン貰ってすぐ帰ればいいだろ。」
『他人事だと思って。見つかったら終わりじゃん。』
「そこをどうにか上手くやるんだな。」
長年の付き合いなのに助けてくれないのか。
鬼!陰湿野郎!生徒から使い魔先生って呼ばれてるの知ってるんだぞ!
イルマくんに召喚されて焼き鳥にされちまえ!
心の中で思いつく限りの悪態をついてバビルスを出ていく。
向かうは理事長の家。もとい先輩悪魔の元へ…嫌だ…
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『失礼しまーす…。』
嫌だ嫌だと思っても理事長宅へ着いてしまったので観念して門をくぐる。
行くことを知られるのが絶対嫌だったので事前に理事長に電話し、すぐお屋敷内に入っていいと許可を貰った。
そして玄関先で書類にサインして頂きたいとも伝えた。貰ったら秒で帰るぞ。絶対だ。
玄関へ近づくと扉の外で理事長が待っていた。オペラ先輩は…居ない!!理事長ありがとう!!!!
『自宅まで押し掛けてしまい申し訳ありません、理事長。』
「いいよいいよ!気にしないで!ここにサインすればいいの?はいッ!」
『ありがとうございます!お手数おかけしました!それでは失礼しますッ!』
「えー、もう帰るの?ゆっくりしていけば?オペラも居るよ?」
その、今名前が出た奴に会いたくないんです!とは言えず適当な理由をつけて帰ろうとしたその時
「やあ、ナマエさん。」
『ギャア!出た!』
「その反応カルエゴくんもしてました。ほんとに君たちは似てますね。」
あああああああ見つかった!!!!!!
最悪だ!!!!!!!!
『お…お久しぶりです…オペラ先輩…。』
「お久しぶりです。可愛い後輩さん。会いたかったですよ。」
可愛い後輩?嘘つけ!ほぼ毎日イビってたくせに!
在学中、この先輩にはパンを買わされたりジュースを買いに行かされたりカルエゴ同様良い思い出が無い。
果てには寒いからとの理由でジャージを奪われたり(サイズがあまり変わらなかったのが更に嫌だった)
私のくせ毛の長い髪が気に入らなかったのか、毎回変なヘアアレンジをされたり(うんこみたいな形にされた)
そして一番許せなかったのがお弁当のおかずを奪われた時だ。それもせっかく前日から仕込んでた煮玉子をだ。二個も食べるなんて信じられない。手塩にかけた私の煮卵。泣きそうだった。
そんな傍若無人な悪魔が、何もせず、優雅に魔茶でおもてなしなんてするはずがない。
これは家に一歩でも入ったら終わりだ。
『それでは私はこれで!』
「午後の授業は入ってないようですね?理事長から聞きましたよ。ゆっくりしていけばいいじゃないですか。近況を語り合いましょう。」
「そうだよ!せっかくオペラもこう言ってるんだからさ!上がっていって!でも僕はちょっと用事あるから出かけてくるね!二人で仲良くするんだよ!」
理事長め!なんでそんな情報流したんだ!!バカッ!!
そして待って行かないで!!!二人きりにしないで!
「はい、仲良くしておきます。」
『やだなー、もう十分仲良いじゃないですか。もうこれ以上深めなくていいと思います。それでは私も帰ります!』
「逃しませんよ」
グエッ、と苦しい声が出た。逃げようとしたら首根っこを捕まれ止められた。
相変わらず容赦ない悪魔だ。
「二人が帰ってくるまで暇でしょうがないんです。居てください。」
『絶対そんな事無いですよね。このお屋敷やることいっぱいありそうじゃないですか。』
「ほら、先輩からのお願いです。聞けないんですか?」
『こんな上からのお願いの仕方あります?ほぼ命令じゃないですか!』
「一生懸命お願いしてます。この通り。」
『もう!バビルスは卒業したんです!ですから、お願い聞く義理は無いです!!』
オペラ先輩の耳がピクッと動き、それは聞き捨てならない、と言うように詰め寄ってきた。
圧がすごい。
「ほーう…もう先輩後輩の仲は解消すると?」
『いや…そこまでは言ってないですけど(ホントは解消したい…)』
「顔に出てますよ」
『えっ、嘘ッ』
「やっぱりそう思ってたんですね」
くそッ!!やっぱりこいつ嫌なヤツだ!
「私は昔から貴方のことを大事にしてきたのにそんな事言うのですね。」
『大事に…!?先輩は後輩イビって楽しんでただけでしょ!』
「それは違います」
『どこがですかッ!?』
「なんで私があんなに呼び出してたか分かります?」
『知らないですよ…便利な後輩だからでしょ…』
「あなたの事が好きだからに決まってるでしょう。」
『………ん?』
どういう事?
オペラ先輩が?私のことを?
『え…じゃあカルエゴの事も好きと…?』
「なんでそうなるんですか。阿呆なんですか。」
『イビれる後輩として好きって事ですよね?それなら十分伝わってるからもういいです。』
「恋愛対象として、です。」
ムッとしたオペラ先輩は私の両頬をつまんで横にひっぱる。痛い痛い痛い!
『痛いじゃないですか!』
「貴方があまりにも頭が悪すぎるんでお仕置きです。」
『先輩がいきなり過ぎるんですよ!仮にも教師だから頭は良いと思っています!で…、ほんとに私のこと好きなんですか?』
「さっきから何度も言ってるじゃないですか。」
『じゃあ私とカルエゴが並んでたとき絶対邪魔しに来てたのも…』
「ええ、カルエゴくんに嫉妬してました。」
よくそんなドストレートに言えるな!恥ずかしくないのか!
おかしいと思ったんだ。二人で並んで歩いてる時、必ず間を狙ってトゲトゲボールを投げつけてきたから。あれそういう事だったのか。一歩間違えれば血みどろだぞ。
「ずっと前から貴方の事が好きですよ。」
頭が、混乱する。ずっと意地悪だと思ってた先輩からこんな事を。
どうして、やめてほしい。そんな真っ直ぐに、真剣に、見ないで。
心が揺らいでしまう。いきなりでどうすればいいか分からない。
動揺しまくる私の真っ赤な顔をみて、眼の前の悪魔はすごーくいい表情をしてる。憎くたらしい。
オペラ先輩の耳と眼を見たら、これは嘘じゃないって分かる。
長年のご機嫌取りで、彼の分かりづらすぎる感情はほぼ読み取れるようになっていた。それをカルエゴに話したら、それはお前にしか分からんヤツだと言われたけど。
そして今この悪魔が、
好きな物に向ける表情をしてるのに気づいてしまった。
そして狙った獲物を逃さない時の、楽しそうな顔。
『えっと、なんて答えていいか…』
「もっと言ってあげましょうか?好きです。愛してます。」
『もう勘弁してください…』
ああ、もう。どうしたもんかなぁ。
学校へ戻ったらカルエゴとシチロウになんて言おう。
顔を隠しながら思う。まさか、こんな感情向けられる日が来るなんて。
卒業してからも、先輩に振り回されてしまうのか。心まで。
真っ直ぐ向けられた赤い瞳に、私はもう全面降伏するしかなかった。
終
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オペラさん初夢!
カルエゴ先生とは元バビルスの先輩後輩って最強に美味しい設定ですね!
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