※真木side
じっと真っ赤な瞳が俺を見詰める。
そして、しばらくの見詰め合いの後、グルルルと狐の腹が鳴ったことにより、狐はペタリとその場に伏せた。飢えた視線はまだ俺が持っている高級稲荷寿司に釘付けだったが。
『それではそのちゃっちい稲荷寿司と釣り合わぬが、…仕方あるまい。承知ぞ』
「ちゃっちいって言うならやらねぇ」
『な、ならぬ!それは代償じゃ!』
「見せただけでやるって言ってねぇし」
『な!?老体を謀ったな、おのれぇ…!!』
からかい甲斐がある狐で何よりだ。
伏せたまま毛を逆立てるという器用な真似をしているが、こんな風に拗ねるのはいつものことで、対策もすっと昔から知っていた。この狐は確かに種族としては狐に含まれるが、眷属という立場上、犬っぽい性質があったりする。
つまり、
「お手」
『ん』
これに応えるのだ。
「食べていいよ」
若干肉球をむにむにして満足し、そう言えばガツガツと食べだした。謀ったな、とか言った時の恨みは多分もう忘れているだろう。
気位の高い神の眷属なのに、何千円と言ってもただの稲荷寿司で犬みたいにお手をして尻尾を振るなんて、世の中意外と平和で住みやすいと思う。因みに、お代わりを用意したら本当にお代わりを披露してくれそうな勢いだった。
『だが、…んぐ、もきゅもきゅ、そなたに、ごっくん、…忠告をだなぁ、』
「食うか話すかにしろ」
『食う』
「そこは話せよ」
そこからはもう返事がなかった。
勢いよく稲荷寿司を平らげ、満足げにペロリと口を舐める狐。今更優雅さを気取っても意味はなく、先程の食べっぷりは忘れない。
『忠告だ、童』
狐がすっと瞳を細めて見せた。
朱色の隈取りと似たようなその色は、だが、隈取りよりもずっと深い鮮やかさで俺を見ていた。見透かしていた。達観したように、そして、どこはかとなく傍観しているように。
狐は眷属である高貴さとは裏腹に、狐本来の食えない表情を浮かべて笑みを携えた。
『七日ぞ、たった七日』
「七日?」
『七日以内に魂を本来あるべき器へと戻すのじゃ。さもなくば、繋がりが切れる。…あれは既に二日も経っておろうぞ』
七日、それが幽体離脱した魂が肉体と繋がりを保っていられる期間。それを過ぎれば肉体に他の魂が入らなかったとしても、戻ることができない。既に二日経っている、か。
『だが、そなたの願いは老体が聞き届けた』
「あ、右の口端に米粒」
『なぬ!?』
[ 22/28 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
座右の銘:リア充爆発しろ。
現世への未練:イケメン滅ぼす。