21.
(俺の心を返せ!)
暖かくて優しい陽だまりのような感覚。
幼い頃から会社の跡継ぎとして教育されてきたせいか、それとも裏社会の職業に手を染めてきたせいか、どちらにしてもその陽だまりのような感覚は長らく手に入らなかった心地良さだった。
全身から力が抜けていくような安心感があるのに、心はそわそわして落ち着かなくて、隣に座っている存在が気になって仕方がない。
ハニートラップには慣れていたのに、こんな感覚は知らない。絶対に知らないんだ。
恋を知らない初な人間じゃない。
だが、打算で成り立った偽物の恋に慣れきった今、この感覚はあまりにもつらい。打算を働かせるほど頭は動いておらず、余裕もなくただ単純にそれに浸かっていたくて、…自分のものにしてしまいたい。
他の誰でもない俺をその目に映させて、同じ感覚を持たせたい。…俺に恋をしてほしい。
(っ!?)
そう思ったことに自分が一番驚いた。
数々のターゲットを落とし、愛情を餌にして目的に達し、心の奥で笑ってさえいた自分がそう思ったことはかつて一度としてあったんだろうか。
いつもが頭で考える打算的な偽物の恋だとすると、これは心に突き動かされる本物の恋だった。
「…は、」
数枚のカードで心を奪われた。
たったの1ゲームでしかなかった。
心の底まで見透かされてしまったのに嫌悪感はなくて、むしろ見られたところで害をもたらされるわけじゃないと思ってしまう。たった数分で信頼も恋心も見事に奪われてしまったんだ。
愛情を売る同業としても、ゲームのプレイヤーとしても俺よりも数枚上手だ。今更ながらなんて相手に勝負を吹っかけたんだ、と怖くなった。
だが、そんなものは所詮後の祭りでしかなくて、今は甘く切ない鼓動が胸を占めている。
[ 22/25 ]
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