3.
「夕食は食べたのか?」
「いや。会社から出て服着替えて急いできた。お前は食ったのか?」
「まだだ」
このドライブに来る時間を出すために今日の仕事を終わらせなければならなかったから、夕食を摂る時間なんてなかった。お腹が減ったのに、清宮の隣でリラックスしている自分がいる。
前を見たまま、清宮が笑った。
その笑みは色気をも武器として使ういつもの笑みではなく、何かを企む子供のように無邪気で微笑ましいものだった。
「そう言うと思った。だから、さっきコンビニで弁当とかパンとか買ってきた」
「え、コンビニ!?」
さっと周囲を見回すと後部座席にコンビニの安っぽいビニール袋が転がってある。中に入っているのは本当に食べ物のようだ。
「ホストを連れ出してコンビニ弁当かよ」
ぷっ、とつい噴き出してしまった。
別に安っぽさを気にしてるんじゃない。
俺だってホストとして店によく貢献しているし、高い貢ぎ物だってよく貰う。だが、いつも贅沢三昧しているわけじゃないし、自分一人の食事はコンビニで簡単に済ますのも多い。
俺が笑ってしまったのは意外性、というかギャップだった。クラブでは躊躇わずに高価なワインを入れてくれる御曹司様が、世界的に有名な車でコンビニに行って食べ物を買う。
想像しただけで笑えてくる。
「おま、…ふ、ははっ、お前が、コンビニって、似合わないにも程が…、ははっ!」
「わ、笑うな!…つか、お前がこんな風に笑うのを見るのは初めてだな。運転中じゃなかったらじっくり見れたんだがな。あーぁ、」
「あと、後部座席に、っく、置くな。取れない。はは、あはは、っやば、腹が痛い…」
「もう食うな!やらねぇ!」
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。