3.
店の裏口は注文した物の搬入やスタッフとキャストの出入り専用となっていて、それらが行われる時間帯以外は基本的に人がいない。しかも、裏口に入ってくるまでに表からいくつか角を曲がらなければならないから、ほとんど人目につかない。
視線を感じながら立っていると、車が来た。
ブラックの高級車。流れるようなフォルムがお気に入りの俺の愛車だが、他の愛車と比べて見た目がそれっぽいから勝手にこれを選んだ。
(漂え、危ない雰囲気…!)
と、隠れている人に念じてみる。
少し離れたところに車がとまる。助手席から降りてきた尋斗は、あの日のようにヤクザ仕様ではなく黒のシャツにデニムだが、マスクと帽子で顔を隠している。周りを確認してからこちらに歩いてきた。
俺の前で止まると、小さな声で、
「レンレンに消毒ディープチューしてもらったよーん!羨ましいっしョ?」
と気の抜けた発言をする。だが、目元は至って真面目だったから噴き出すのを必死に我慢した。まぁ、榊は俺の背後にいるわけだから、俺が多少にやけても問題はないだろうが。
「黙れ。惚気うざいから」
尋斗がアタッシュケースを受け取る。
少しだけアタッシュケースを開けて中身を確認するふりをすると、満足げに頷いた。
遠くにいる榊に聞こえるほど俺達の声は大きいものではなく、榊からすれば人気のない時間と場所でオーナーが誰か組織の人間に内緒で会って、拳銃を渡したように見えるだろう。
俺はちらちらと周りを気にするふりをして、尋斗はさっとケースを閉じる。演技は完璧だ。
そして、尋斗は助手席に戻り、車は何事もなかったように走り出した。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。