2.
清宮に不審な点は少しもない。
だが、それでも長年情報屋をしてきた第六感のような本能が、警鐘を鳴らしている。
「お前は毎週毎週俺のところに来て…、そんなに暇なら榊を手伝ってやったらどうだ?」
「お前に会えねぇ一週間がどれだけ長いか分かってねぇからそう言えるんだ。お前が傍にいねぇ時は息すら出来ねぇんだよ、俺は」
そんなことを真面目な顔でさらっと言う。
口調は男らしいのに荒々しさはなくて、俺が返事に困っているとさっと左手をさらわれた。軽く指先を握られて、楽しそうに、本当に今この瞬間が幸せでたまらなさそうに微笑んでから、手の甲に触れるだけのキスを落とした。
キスをする瞬間に閉じられた目。伏せられた睫毛がとても長い。ちゅ、という控えめなリップ音と優しくて柔らかい唇の感触。
唇を離してから擦り寄ってくる。
主人に擦り寄って甘える猫のようで、表情は演技だと思えないほど柔らかい。赤っぽい茶髪が手の上に流れてきてくすぐったい。
「お前の心を金で買えんなら、どれだけいいんだろうなぁ…」
清宮は目を閉じたまましみじみと呟いた。
「…俺よりホストに向いてるんじゃないのか?」
「お前以外に愛を囁けない」
「あっそ」
客だとは思えないこの言動が俺を警戒させるのか、それとも、若さに似合わない威圧感と落ち着きが俺を警戒させるのか。
それは一般で言えば不自然だろうが、本気で愛してくれる客もたまにいるし、物怖じしない堂々とした雰囲気も清宮が財閥グループの御曹司だと考えれば納得できなくもない。
俺の考えすぎだろうか。
実際、清宮が受験者である証拠は何もない。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。