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釣り針にかけられた餌

※榊side

『状況はどうッスか、餌くん』

「だからその餌っていうの、やめてくれません?…まだ何とも言えませんよ」

ゴミ捨て場に持っていたゴミ袋を捨て、誰もいないのを確認してからピアス型の通信機のスイッチを入れた。ピ、ピ、ピ、と特有のコール音が聞こえて少しして、能天気な声が鼓膜を揺らした。

「とりあえず潜り込めましたよ」

『ふぁー、あっそう』

「…イライラしますね、その欠伸」

『だって、俺今日はお休みッスから』

チームメイトのやる気スイッチは入っていない。

TCCEに参加すると決めてから必死に他の二人を探し、接触して協力関係に持ち込めたのはいいものの、一人はベッドの上でゴロゴロしてて、もう一人に至っては通信機の電源すら入れてくれない。

「油断は禁物なのですが、思ったほど厄介な相手ではありません。少なくともオーナーは」

『どういうこと?』

ホストクラブ『Oasis』、違法行為に手を染めているというその店はなかなか厄介な相手だと覚悟していた。裏ではそっちの職業と繋がっているだろうし、少なくても情報屋は雇っている。

なのに、いざ蓋を開けてみれば、比較的簡単に懐に潜り込めたし、警戒されてもいない。

(あんな単純な人がオーナー、ですか…)

行動するにあたって、まず初めに探るべきなのは相手側に情報屋がいるかどうだ。何人、そして、できればどのランクに位置しているか。

そこで考えたのがこの作戦だ。

よく言えば囮作戦。悪く言えば、…餌。

出来るだけ自然に紛れ込むものの、分かる人には分かるヒントがある。同業者ならば正体を見破り、警戒し、店に加わるのを拒絶するだろう。

だが、あのオーナーはどうだ。

(渋りはしましたが、入れてくれましたね)

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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。