2.
※榊side
実は、バレる覚悟で行っていた。
だが、あの単純そうなオーナーは高価すぎるカフスボタンにも気付かず、ドンペリを割ったタイミングの不自然さにも気付かず、挙句の果てに急に任せられる場所がないとそれだけの理由で一番奥の部屋に入れてくれた。
銃の構え方だって素人のもので、一目で訓練を積んだ人間じゃないと分かった。
だが、レプリカに紛れた本物の銃も、不自然な厚さのファイルも、清宮に女を紹介させようとしたあの発言も、全て証拠になる。
「オーナーは裏社会の人間ではありませんよ。あれは多分、末端で売ったりしてるだけ」
『ふーん。俺も自分とこの店のオーナーが、って聞いた時は驚いたッス』
「ま、そうは見えませんよね」
きっとオーナーの心の中では私はとんでもない最上級ワインを割ってしまった不運な秘書でしかなくて、店の裏稼ぎのデータを盗もうとしてるなど考えてもいないんだろう。
(…綺麗な方でした)
白い肌を引き立てる艶やかな黒髪も。
涼しげな目に陰を落とす長い睫毛も。
少し意地悪で、誘うような綺麗な唇も。
こちらに視線を向けただけで、指先を少し動かしただけで呑まれそうな色香を出す。彼はまさしくこんな夜の店が似合っているのに、銃を構えたあの瞬間に見せた無邪気な笑顔はまだ若くて、悪戯っぽくて、同い年だということを思い出させた。
(あんな人が、)
だが、それでも油断は禁物だ。
彼は鈍かったとしても、仲間に誰がいるか分からない。それこそ名の知れた情報屋かもしれない。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。