3.
「本題だが、榊諒太という男を探ってほしい」
この話をするために蓮を呼んだ。
「そいつが受験生ですか?」
「あぁ。だが、おそらく偽名だ」
「でしょうね。本名を使って任務を行うようならサクっと不合格にすればいいんです」
「意外と言うなぁ、お前。で、その榊という男は清宮グループの御曹司、清宮慧の秘書だ」
「それだけあれば充分。すぐに割り出せます」
割り出し方は簡単だ。
清宮グループの内部ネットワークを侵入し、榊諒太という男の経歴を調べる。面接に来た時の履歴書はデータ化されているし、これくらいの嘘はあらかじめ向こうも用意している。
これは『榊諒太』の探り方だ。
そして、彼本人の探し方は別にある。先程もらった名刺を蓮に渡した。電話番号とメールアドレスを見ると、蓮がたまらずに苦笑いをした。
「本物の連絡先、ですよねぇ…」
「たくさんあるうちの一つ、だがな」
「一般人相手ならまだしも、本職の先輩相手にこんな媒体と直接結びつくものを教えるなんて、…すごく微笑ましいです」
「足を残すなよ。ウィルスばらまくのもダメだ。こちらに情報屋がいると感づかれるな」
「任せてください!」
蓮は冗談っぽく敬礼して見せた。
今やろうとしているのはデータの奪い合い。
こちらに情報屋がいるとバレてはまずいが、相手もその可能性を考慮しているんだろう。
ゲームはまだ序盤。じっと息を潜めて、相手の出方を見る時期だ。この時期、情報が足らないまま闇雲に走るのは不味い。奴らだって本命の情報よりも、まずは周りを確認しに来る。
つまり、データに罠が仕掛けられるとすれば、
(ウィルスなどの攻撃タイプではなく、不正アクセスしてきた端末の逆探知タイプ…)
蓮の瞳が細まって、煌めいた。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。