補佐参上
『…、……っ!レン…、……!!』
「何言ってんですか、二人っきりと言っても相手はコウさんなんですよ?馬鹿なこと言ってないで、さっさと支度して仕事に来てください」
『もし、…………っら、…!?』
「頭に水でも入ったんですか?…はぁ。もう切ります。急いでくださいね」
榊が部屋の掃除を終え、他の場所の手伝いへと向かわせてから三十分。
その直後にこの部屋に上がり込んだ警備員が応接用のソファーを陣取り、俺が話しかけようとした瞬間に彼に電話が来て、出てから約二十五分。ずっとこの調子だ。
きゃんきゃんと電話口で喚く相手を慣れたようにあしらっていく光景も、見慣れたものだ。
まだ何か言っている電話の向こうの相手を無視して、はぁ、と心底うざったそうな溜め息を吐きながら警備員の男はようやくこちらを向いた。申し訳なさそうな表情だ。
「すいません、コウさん」
北谷 蓮(きたたに・れん)。
今でこそ警備員の制服を着ているが、本職は情報屋だ。コードネーム『夏季(なつき)』。蓮の花が夏に咲くという理由から付けられた可愛らしいコードネームだが、彼は一流の中の一流であり、特に機械操作やハッキングにおいては天才的だ。
そして、三年前に最後の旧式試験を合格した二人のうちの一人であり、俺が指名した試験監督補佐だ。
彼を補佐に任命した理由は既にTCCEを通過している情報屋であるなら絶対に受験者ではないのと、俺が彼と馴染みであることだ。
初めは彼の恋人と腐れ縁があったんだが、仕事やプライベートで会っていくうちに彼とも仲良くなった。…恋人は彼を独占したいらしいが。
「あいつはそんなに急がなくていい。何日か後に客に変装して来てもらうつもりなんだ」
「そうなんですか?」
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。