3.
その時、ポケットの携帯が震えた。
それは登録していない番号だったが、深夜のこのタイミングでかかってくるものだからまさかと思って出れば、本当にそのまさかだった。
『もしもし、…コウ?』
「…清宮か」
『っ、俺だ。番号は辻から貰ったんだ』
辻にも携帯番号を教えた覚えはないが、たぶん、傍にいた蓮か尋斗が教えたんだろう。
会いたくてたまらない人が電話をかけてくれて、何日も経っていないのにその低くて優しい声が懐かしくて、言葉を選んで沈黙していると何を勘違いしたのか清宮の声が焦りだす。
『コウ、切らずに聞いてくれ』
お前からの電話を切るわけないだろ。
ざあ、ざあ、と波が打ち寄せて穏やかに引いていく音を聞きながら、清宮の声に耳を澄ます。
『…騙して悪かった』
波の音も綺麗だったが、清宮の声とは比べ物にならなくて、清宮の声だけを聞いていたくて、ポケットから取り出したイヤホンを差し込んだ。
『騙してデータを奪ったこと、…本当に悪かったと思ってる。…あの夜のドライブも全部が伏線で、甘い時間を過ごすのが目的じゃなかった』
言葉の一つ一つを選んでいるようで、電話の向こうで清宮も言葉に悩んでいると分かった。だが、それでも想いを伝えようとしていた。
『お前にハニートラップを仕掛けた。…愛してるって嘘ついて、最低なやり方だった』
「それは今でも嘘なのか?」
『違うッ!!』
そんなに必死にならなくても分かってるから。
お前の本気の証はしっかりと見たし、俺の心にもしっかりと届いたから。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。