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信じること


店を出て、電車を乗り継いだ。

清宮に行くとも言ってないのに、というより、清宮がどこにいるのかも分からないのに移動している自分に呆れてしまった。挙句の果てにどこに向かっているのかも分からず、やっと目的地が分かったのは降りる駅についた時だった。

電車から降りてホームに立った瞬間、とても穏やかな潮の香りが肺に広がっていく。

どうやら俺が無意識に選んだ場所は、あの時に清宮と来た浜辺のようだ。

帰る時はアイマスクをしなかったからどこの浜辺かも覚えていたし、少々遠くても交通は便利だからふらふらと来てしまった。だが、困ったことに乗っていたあの電車が今日の終電らしい。

ホテルも予約していないし、駅を出てもタクシーの影すら見当たらない。下手したら寝る場所もないが、俺は不思議と心配していなかった。

必ず清宮はここに来る。

根拠もないのに、そう思えた。

晴れ渡った夜空は、チカチカといくつかの星だけが瞬いていた。標識を頼りにたどり着いた浜辺は真夏だからあの時よりもだいぶ人が増えていて、散歩やら花火やらを楽しんでいる。

(マジで来んのかよ、)

だなんて、なぜか本気では心配していない。

潮の香りを乗せた海風に髪を靡かせながら、ぎゅ、と鞄を持つ手に力を入れた。

ざあ、ざあ、何度も打ち寄せては引いていく波の音が緊張しきった心を和らげてくれて、とりあえず物思いにふけながら波打ち際を歩くことにした。こうすることによって、そわそわと落ち着きのない体をなんとかしたかったんだ。

真夏の八月初めとはいっても、夜の海風はひんやりとしていて気持ちがよかった。

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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。