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13.


覚えている。

初めて辻が来た時、俺達はキスしていた。辻が俺達の前に立ち止まってこちらを見るものだから俺から唇を離して、…清宮は不機嫌になった。

「22日で思い出しましたが、そのあたりから慧は元気がなかったんです。ハニートラップが順調に行かないからだと思ってましたが、」

辻が思い出すように目を細めた。

「今思えば、悩んでたんでしょうね。データを提出するか、それとも、消去するか」

「…っ、」

「苦しんでもいたと思いますよ。本気で愛しているコウさんを騙してしまったこと、傷付けたこと」

辻に言われてあの夜の清宮の表情を思い出す。

車の中で体温を分け合った土砂降りの夜。溢れそうなほどの愛情を滲ませて、幸せを噛み締めて、花のようにふんわりと微笑んでいた表情。隠そうとして、だが、隠すことに失敗した苦しいほどの切なさと罪悪感を浮かべた目。

あの情事は俺を眠らせるための伏線でしかなかったのに、清宮は本当に幸せだと感じていて、そして、これからデータを奪おうとすることに苦しさを感じていたのかもしれない。

「最後の金曜日、慧は店の前まで来てました。…でも、行かないと不自然だ、って何度説得しても入らずに結局会社に戻ってしまいました」

「そうか、」

「その時の表情が泣きそうで、」

俺は何も言えなかった。

口を開いても言葉が見付からなかった。

そんな俺を見透かしたかのように辻が言う。先程まで清宮のことを思い浮かべながらの仕方なさそうな眼差しは、今度は俺に向けられていた。

「だから、慧に合格証明書とメダルを渡すことは手伝えません。ご自分で渡してください」

ぱち、とウィンクをして辻は給湯スペースを出た。

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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。