12.
ふと清宮の言葉を思い出した。
『お前に不利益なもんなんだろ?』
その声を鮮明に思い出すことができる。守りたい、と言うような迷いのない声だった。
(…まさか、)
清宮は試験終了までこれがセッティングされた舞台だとは知らなかったわけで、全てが本物だと思い込んでいたわけで、…だとしたら、
(俺を守ろうとした?)
もし、演技ではなく本気だとしたら。
もし、最後は本当に死を受け入れる気だったら。
もし、…データを提出することによって運営本部がそれを警察に与え、それが証拠になって俺が逮捕されると心配していたとしたら。
ハニートラップだと思っていた。最後の夜のあの行動も、噛み締めるように優しい言葉も。だが、仲間を裏切り、自分の合否すら投げ出して構わないというこの行動の理由は、ハニートラップという言葉では到底片付けられなかった。
(嘘だ。そんな、…本気だった?)
だから、自ら銃を喉に合わせたんだろうか。
だから、ナイフを避けなかったんだろうか。
俺のために死んでも構わないと本気で思っていたから。自分があそこで死ねば仲間を裏切ることもなく、俺を裏切ることもないと考えたから、あんな行動に出たんだろうか。
そして、俺が逃がして、清宮が最後に選んだ答えは俺ではなく仲間を裏切ることで…、
「はぁ…。あの馬鹿が。ですが、知ってましたよ。コウさんにずっと本気だった、って」
チッ、と辻が舌打ちをした。
「ハニートラップとか言いながら自分の方が最初から溺れてたんですよ、あいつ」
「最初から?」
「傍から見たら分っかりやすいですよ」
「え?」
「私が店に入った日、あなた方のキスを邪魔した時なんて、お前失せろ、邪魔だ、って目で私を殺しそうでした。計画通りに動いたのに、おかげで内心焦りまくりましたよ、もう」
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。