9.
「女じゃなくて俺じゃダメか?」
拒絶。深追いはなかった。
それは呆れと嫉妬を混ぜた声色で、軽くデコピンをしてくる。ふっと目を伏せて、長い睫毛が瞳に陰をかけるだけで憂うような凄まじい色香を放ってくるものだから困った。
「俺が皿洗いしますから!」
「榊だっけ?うちはアルバイト募集してないし、お前にだって仕事はあるだろ?」
「夜に来ますから!」
「…そうじゃなくて。悪いんだけど、俺もほいほい人を入れてるわけじゃないんだ。ほら、慧。お前も何か言ってやれ」
心底困ったようなふりをして、溜め息を吐きながら清宮を見る。清宮は軽く肩を竦めて見せた。
「働かせてやれば?使える奴だぞ?」
「本当にこれ以外に方法はないのか?」
「ないな」
キッパリと迷わずに断言しやがった清宮に、大袈裟に溜め息を吐いては渋々といった表情で眉を寄せてみる。そうすれば、榊が安心したように肩から力を抜いたのが分かった。
(分かりやすすぎるんだよ)
組んでいた足を降ろして、また逆の足を組んで、迷っているような少しイライラしているような演出をしてから、俺はついに頷いた。
「いいだろう。よろしく、榊」
「はい。頑張ります」
三人の受験者のうち、一人はこいつで確定だ。
まぁ、店の中には入られてしまうが、簡単にパソコンのセキュリティを破られるとは思えないし、言わば俺の監視下にあるようなものだ。
それに、楽しみにしていた酒を台無しにしてくれたこの後輩をどうからかって遊ぶか、俺は内心どきどきわくわくしていた。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。