8.
「にしても、可愛らしい秘書だな。仕事場は毎日賑やかになるだろ?」
「確かにからかって遊ぶのは楽しい」
「あまり遊んでやるなよ。ほら、お前に付き合わされて疲れた顔をしている」
そんなわけがない。
髪も肌も状態は良好。目は少しも充血していないし、目の下に隈もない。健康状態だ。洞察力のなさは頑張ってアピールするつもりだから、油断して情報を漏らしてほしいだけだ。
「いや、榊はつい先週に来た新しい秘書でな、…お前、仕事はきついか?」
「きついですよ!慧さんが逃げるからいつも尻拭いばかりで…!昨日なんて何時に帰ったと思ってるんですかぁっ」
そう言うなら目の下に隈を書いてこい。
(庇わなかったな)
榊の状況を知っているなら、昔から付き添っていた秘書だがお前には話していなかった、くらいの嘘をついた方がいい。
いや、そもそも受験者は試験監督がいることを知らないのだから、昔からいようと新しく来ようと関係はないと思っているだろう。
とりあえず、
「慧、お前が払えば?それでこいつの給料から少しずつ引いていけばいい」
「いつまでかかると思ってんだよ、それ」
「それか、…そうだなぁ、俺の奢りにしてやってもいい。代わりに女を紹介しろ。彼女にふられたばかりで悲しいんだ」
お前ならいるだろ?、と清宮に寄りかかる。
「それは客の前で言う言葉か?」
「俺らの仲だろ。お前がいらない女でいい」
さぁ、清宮は食いかかるか。
この話に榊が食い込んでくるのは不自然だ。だったら、売春をにおわせた誘いを清宮は深追いしてくるかどうか。俺は清宮の目を見つめながら、黙って言葉を待っていた。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。