5.
トントン、と控えめなノックがした。
「しっ、失礼ェしまぁす!」
「和泉…、声裏返ってるッスよ…」
「仕方ないじゃないですか!こんなに緊張するのは初めてエロ本買った時以来なんですよ!?」
「それ、俺に言うなッス!」
ドアのすぐ外でこそこそしている気配と小声で話しているのにはっきり聞こえる会話に、また噴き出しそうになった。蓮を見ると肩が震えていて、尋斗も苦笑いを浮かべている。
メロンを切っていたフルーツナイフを一旦止めるまでもなく、蓮が代わりに返事をしてくれた。
「どうぞ。お入りください」
「失礼します…」
「失礼するッス」
おそるおそる足を踏み入れる二人が可愛くて耐えきれずに笑えば、恥ずかしそうに視線が泳ぐ。
切り終わったメロンと何種類かの果物を盛り付けて、紅茶を淹れる。真ん中のローテーブルにおけば二人が緊張するのが見えた。
「緊張するな。タバスコは入れてない」
…清宮の姿はなかった。
「清宮は?」
「…仕事で来られないんです」
言いにくそうに辻が口を開く。逃げるように視線を泳がせながらも、ちら、ちら、と俺の反応を窺っていた。会社の仕事よりこちらを優先しろ、と俺が怒るとでも思っているんだろうか。
「そうか。仕方がない。あいつはもともと金曜日以外はクラブに来ないからな」
会わずに済むならそれでもいい。
無意識のうちにほっと吐いた息に、実は清宮に会うことに緊張していたと知った。…だが、それと同時に胸が切なくなる気がした。
清宮が来ないのは本当に仕事なんだろうか。それとも、二度と現れるな、と俺が言ったから仕事を建前にしただけなんだろうか。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。