Homeopathy | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

6.


(なるほど、よくできたストーリーだ)

心の中でクスッと笑った。

(榊、…この男は受験者の一人で間違いない)

人間というものは勝手に懐に入ってくるものには警戒心を持つが、自ら懐に招き入れたものにはいくらか警戒心が薄れるものだ。

俺、『Oasis』のオーナーに接触したい。だが、不審がられたり警戒はされたくない。よって、一番近道である方法は、

(オーナー自らクラブに引き留めなくてはならない状況を生み出す。…で、これか)

だが、それにしては少々演出が下手すぎる。本当に相手がただのオーナーやホストなら騙し通せるだろうが、情報屋として食べていく者ならそう苦労せずにボロを見付けるだろう。

そう判断した理由は二つ。

一つ、ぶつかった時の榊の姿勢だ。

人間、予期にしない接触の時には本能的にまず防衛本能が働く。死角である背中の接触など特に、だ。その場合、体の中心を守るように背中が丸まる。

その差に個人差こそあるものの、榊は全く背中を丸めていなかった。肩すら跳ねなかった。そこから導き出される答えは、

(この接触は想定内であり、故意だった)

ならば、彼は後ろを見ずに足音だけでスタッフの位置を特定し、自然に、そして、最小の力で最高の効果を出せるタイミングを見計らってぶつかり、ワインのボトルを落とさせたんだ。

(へぇ?気の弱そうな態度はよそ行き用って?)

そして、二つ目。これは致命的だ。

榊のシャツの袖に見えるカフスボタン。

どこにでも売ってるような普通のスーツを着て初々しさを演出したはいいものの、あのカフスボタンはイタリア老舗ブランドの限定品だ。

売られ始めた時にだって結構手が出しにくいものだったのに、マニアに転売されていくうちに値段が数倍にまで跳ね上がった。

こんな若いサラリーマンには到底手に入る代物ではないし、何よりそのカフスボタンを買えるだけの財力があるならエノテーク・プラチナを弁償することだって難しくないはずだ。

[ 12/224 ]
prev / next
[ mokuji / bookmark / main / top ]

騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。