5.
「す、すみません!」
「とりあえず、怪我はないか?」
「はい。私は大丈夫なのですが…」
スタッフが慌てて掃除に来る。
俺はじっくりとボトルを眺めてみた。
「あーぁ、よりによってプラチナの方かよ。シャトーならまだしも…。コウ、どうすんだ?」
エノテーク・プラチナ。
一本数十万もするドン・ペリニヨンの中でも最も希少であり、最も高いランクに位置する。
幻とも呼べるこのシャンパンはほとんど市場に出回らず、俺も探し出すのにはかなり骨が折れたし、相当な高値でしか買い取れなかった。
シャトーなら四十万程度で済んだのに、このエノテーク・プラチナは軽く数倍はかかる。
「どうするって、…お前の部下だろ?」
「いやいや、俺は飲みたかったんだよ。だが、榊の給料じゃこの酒の弁償は難しいな」
「私が必ず弁償します…」
「だから、お前、この酒の値段分かってねぇだろ。お前の何ヶ月分の給料になると思ってんだよ。せっかくコウを口説こうと思ったのに」
榊、と呼ばれた彼は涙目になっていた。
気は少し弱いが、彼も綺麗な顔をしている。
出来る男というかまだ幼さを残したドジな学生のようで、うちに来て働けば年上の色っぽいお姉さま方に大人気になるだろう。
だったら、うちに来て働けばいい。清宮の会社と重なったり、都合がつかない日は来なくていいし、深夜だけでも構わない。
(だなんて、)
そんなこと考えるわけがない。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。