4.
「また会議をすっぽかして、私がどれだけ慌てたかっ…!!これで何回目ですか!!」
どうやら仕事の話らしい。
そりゃそうだ。どう転んでもホストクラブに遊びに来る類の人間には見えない。
染めたこともなさそうな黒いつやつやとした髪は、少しの癖を残してきちんと整えられている。長い睫毛を持つ目は少し鋭いが、シルバーのノンフレーム眼鏡のおかけでいくらか優しく見えた。
シャツのボタンは律儀に一番上までとめられ、洗いたてのスーツには皺一つない。
出来る男の雰囲気を出していたが、彼自身は社会人になったばかりのような初々しい若さを持ち、さらに清宮みたいな人間が上司だというのだからきっと苦労は絶えないのだろう。
「なんとかしろつったじゃねぇか」
「…いや、出てくださいよ、会議」
もはや涙声だ。
「出たくねぇ」
「今度逃げようとしたら執務室のドアをロックして開かないようにしてしまいますよ?」
「そしたらどうしよっかなぁ?」
彼は冗談や脅しのつもりだったんだろう。だが、清宮が浮かべた人の悪い笑みに怯えたように一歩後ろに足を引いてしまった。
タイミングが悪かった。
ちょうど後ろにワインを持ってきたホストが来て、ぶつかってしまったんだ。互いに予期しないことだったらしい。眼鏡の向こうの目が大きく見開かれるのが見えた。そして、
ガシャンッ!!
ワインはホストの手を滑り降り、割れた。
芳醇な匂いを放ち、キラキラとしたガラスを散りばめながら見るも無残に割れていた。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。