3.
「そういえば、最近慧も沈んでますよね」
「あー…、あれ、たぶん、コウさんにハニートラップ仕掛けたのに収穫がないからじゃないッスか?だって、あと四日もないッスもん」
「ハニートラップ、ねぇ」
あの男は甘い蜜で人の心を懐柔することに長けているが、やはり本職の水商売には敵わなかったのか、いまだにコウさんが靡く気配はない。
慧曰く、クラブから連れ出せたこともないらしい。アフターサービス禁止だから、と言って誘いを断られる状況でデータを手に入れるだなんて夢のまた夢でしかないだろう。
あと四日になったが、焦ってはいないらしい。
だが、慧が沈んでいるのは目に見えていた。確かに立花の言うように、データを奪えなくて落ち込んでいるのかもしれない。だが、私にはそうは見えなくて、むしろ、
(罠であることも忘れて、本気で好きになって、コウさんにフラれてしまったみたいな)
言ってしまえば、失恋のような。
慧のコウさんに対する態度は洗練されたトラップなのか、それとも、いつの間にか本当に愛してしまったのかは分からない。だが、それが前者であれば大した実力で、後者であれば厄介だ。
試験を考えれば前者であってほしい。だが、友人としてなら後者であることを願ってしまう。
もしもコウさんがヤクザに脅されているのなら、清宮には彼を助ける力があると思うから。
(…前提として落とさなければ無意味ですが)
好きになってもらえませんでした、では話にならない。それはとんだ笑い話だ。
あのハニーがハニートラップを仕掛けたものの、ターゲットに相手にされないどころか自分が心を奪われた挙句、フラれてしまった。
(笑えますね)
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。