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揺れる心

※榊side

「…いい加減やめませんか?」

「嫌ッス!撒くッス!」

「…………はぁ、」

コウさんが部屋を出て少し。掃除を任されたのはいいものの、割れたグラスの欠片を掃いて床にモップをかけた途端から塩撒きが始まる。

鬼は外、だなんて季節も違っていれば塩を握りながら言う台詞でもないそれを、ぶつぶつと念仏のように唱えながら一心不乱に塩を撒く仲間の姿には、正直、引きたくなった。

「塩なんて迷信ですってば、」

「婆ちゃんが効果あるって言ってたッス」

「……あっそう、」

撒かれた途端にチリトリで回収し、ゴミ箱へ。

「捨てちゃめ!ッス」

「あのね、雪道に塩を撒いて滑り止めにする時がありますが、そんなことを言ってたら悪い人は全員通行止めなんですよ?」

「…え?…ん?…と、とりあえず、悪い人なんか全員通行止めになればいいッス!」

立花がふと手を止めた。

こっそりキッチンから盗んできた塩を握り締める手に、力が入ったのが見えた。

なんだかんだ言って、立花はコウさんに懐いているんだと思う。そして、それは自分にも言えることだ。恋愛感情じゃない。それでも、姿を見ればほっと心が安らいで、落ち着く。

ドリンクを持ってきた時、万が一何かある場合のために立花が部屋の外で待機していた。だが、目に飛び込んできたのは思いもよらない光景だった。

(本当に頭に血がのぼりましたね)

無理矢理ソファーに押さえつけられた体、カタカタと小刻みに震える指先、必死の抵抗、強張った表情、…次々に溢れてくる涙。

コウさんとの付き合いは長くない。だが、簡単に泣くような人じゃないと思う。

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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。