10.
割れたグラスの片付けを二人に頼み、部屋を出て少し歩いた時、携帯が振動した。尋斗からのメールで、文面を見た途端に笑ってしまった。
『そんなに相手が好きなら、マジにさせてやれば?それか本当に忘れたいんだったら、今度お兄さんがご飯奢ってあげる。食べ放題で』
(うわ、尋斗らしい)
頬を緩ませながら、返信を打った。
『さっきはごめんな。よし、奢れ。俺も悪かったし、仕方ないから食べ放題で我慢してやる』
清宮のことはふっきれた。
今回は俺が馬鹿だっただけだし、どういう方法であれ目的を遂行しようとした清宮に非はない。清宮に罪悪感があっただけで少しは慰められる気がするし、全く俺が好きじゃない相手に未練がましくアプローチする気にもなれない。
もちろん、騙されたから、傷ついたからといって清宮の点数を下げたりもしない。試験にも成績にも私情は混じえないつもりだ。
今ではただのホストと客、もしくは、先輩と後輩の関係だと思っている。
明日、清宮がクラブに来ても、俺はきっといつものようにあしらいながら接客が出来るんだろう。そして、あいつが言う前に、俺から別れを切りだして清々しくフッてやる。
そう思えるほどに余裕が戻ってきていた。
尋斗からの返信はすぐに来た。
『ちょ、上から目線。ムカつくんだけど』
またクスッと笑って、今度は返信をせずに携帯をポケットに放り込んだ。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。