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8.


さんきゅ、唇の形だけでそう告げる。

尋斗はほんの少しだけ笑みを深めた。

そして、俺から視線を外して部屋を出ていってしまった。たぶん、このまま店を出るだろう。

(かなり迷惑かけてしまったな…)

後でどうやって謝ろうか悩んでいると、それを茫然自失と勘違いしたらしい榊がまたあやすように背中を撫でてくれた。ポケットから出したテイッシュを渡される。そこで初めてまだ涙を拭いていないことに気がついた。

「ありがとな」

「…いえ、」

「うー!嫌な奴!塩撒くッス、塩!!」

涙を拭きながらつい笑ってしまった。

「お前、塩って」

「コウさん、いいッスか?今度あれが来たら店に入れちゃめ!っスよ?絶対に二人になっちゃめ!ッスよ?コウさんなんて、ペロッと頭から食われちゃうんスからね?」

「いや、それはさすがに…。というより、本当に俺が悪かったんだ、あれは」

「ダメなら俺を呼ぶッス!」

「分かった。分かったから」

力では敵わなくても瞬発力やテクニックも含んだ普段の戦闘なら尋斗と俺は互角だが、そんなことは教えてやらない。だが、榊と立花の気遣いがとても嬉しかった。

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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。