7.
冷静になれば分かる。尋斗の目をよく見れば分かる。尋斗がどうしてあんな行動に出たのか。
(…本気なんかじゃなかったくせに)
本気に見せかけただけだった。
どれだけ自暴自棄になっていても、どれだけ清宮の体温を忘れたくても、結局俺は愛した人以外に体を許すつもりはないらしい。
昔なら話は違っていた。仕事で必要なら迷いもなかったし、プライベートで好みの人間に言い寄られて抱いたこともあった。だが、本気で誰かを好きになってから変わってしまった。
俺は尋斗なら、溺愛する恋人がいるこいつなら、絶対に俺を抱かないと心の深くで知っていた。
だから、その保険があるうえで尋斗を誘った。
誰かに抱かれて清宮の体温を忘れたいのが理性だとすれば、清宮以外の誰とも体を繋げたくないのは本能だった。尋斗は俺よりも早くに、そのことに気がついていたんだ。
(俺を抱くつもりなんてなかったくせに、)
演技で人を抱ける奴がいる。その一言で俺がハニートラップに引っかかったのも、それが自暴自棄になっている原因だとも、そして、まだ相手を好きでいるとも見破っていたんだ。
尋斗の目がふっと細まる。優しい雰囲気のそれは、きっと何年もの付き合いがある俺にしか分からないほど僅かな表情の変化だっただろう。
「ったく。お楽しみを邪魔されちゃあ、興ざめだ。今日はもういい。帰る」
「さっさと帰れッス!んで、二度と来るなッス!」
ゆらり、と尋斗がソファーから立ち上がる。
何か言いたくて、謝りたくて、だが、俺に向けられた鋭い目の奥に隠された優しさと暖かさに何も言えなくなった。
尋斗は全部分かっていたんだ。だから、俺に自分自身の気持ちに気付かせるためにああした。これからどうすればいいのかは分からない。だが、少なくても、誰か適当な人間と闇雲に関係を持とうとすることはなくなるだろう。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。