6.
「もう大丈夫ですからね」
俺を落ち着かせようとする優しい声。
ゆっくりと周りを見回してみると部屋のドアは開け放たれていて、すぐ近くに割れたグラスと銀色のトレーが転がっている。中に入っていたドリンクやワインも滅茶苦茶だった。
俺と尋斗の間には誰かが立っていて、広い背中で俺を隠すように立っている。その人はスーツを着ていたが、髪色は赤っぽい茶色じゃなくて金色に近い明るい茶色だった。
清宮じゃない。思わずそう考えては落胆する自分自身にに心底嫌気が差した。
「コウさんに手を出すなッス」
立花の声はいつもの明るさとはかけ離れた冷たくて、唸るような低いものだった。
その向こうにちらりと見えた尋斗は少し頬が赤くなっていて、無言で立花を見上げている。完全に誤解された状況に、いや、誤解かどうかも判断できないが、とりあえず立花を止めようと口を開いた。
なのに、俺の背中を撫でていた榊に腕を掴まれて、ゆっくりと首を横に振られた。
たぶん、榊と立花は尋斗が無理矢理俺を犯そうとしているように見えたんだろうが、話はそんなに単純じゃないんだ。
「立花、気持ちは嬉しいが、やめろ」
「…なんでッスか?」
「その人は悪くない。…俺が悪いから、」
「コウさん脅されてるッスよね?」
「違う!」
強く否定すれば、立花がたじろいだ。
「本当にその人は悪くないんだ…、」
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。