5.
怖い。怖い。体が勝手にガタガタ震える。
こんなに冷たい尋斗は、こんなに本気の目をした尋斗は、見たことがなかった。
逃げ場を奪うべく俺の太腿の間に立てられた膝、力を緩めない拘束する手。もう片方の自由な手はボタンを引きちぎる勢いでシャツを開いていて、時折布地が破れる嫌な音がする。
「やめろ!尋斗!!」
それはもう悲鳴そのものだった。
泣きたくて、実際に泣いていて、ボロボロと止まらない涙を気にもせずに尋斗が鎖骨に吸いつく。跡は残らないだろうが、ぶわりと全身の鳥肌が立って久々に本気の抵抗をした。
だが、足を振り上げても当たらなくて、拘束から抜け出そうにも力が強すぎる。俺も鍛えてはいるが、力比べになると尋斗には勝てない。
それがどうしようもなく悔しくて、…怖い。
「尋斗!!尋斗、っ、やめてくれ、」
「やめないよ?」
唇が滑る感触に、涙の量が増える。
純粋な力比べに勝機はないと分かっていてもの力の入らない体勢だとしても、この行為を続けることが恐ろしくて抵抗をやめなかった。
「っぐ、」
だが、必死に抵抗していると、必死に暴れていると、手首にかかっていた圧力が消えて、上に覆い被さっていた体も消えた。何かを殴ったような鈍い音と痛みに耐えるような呻き声が聞こえたが、滲んだ視界ではよく見えなかった。
唐突に伸びてきた腕に抱き起こされる。訳が分からなくて、怖くて、逃げようとすると聞きなれた声が近くからした。
「コウさん、落ち着いてください。榊です!」
その声に、やっと前を見た。
「…さか、き…」
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。