4.
「あのねェ、前回はどうであれ、あれは演技なんだから抱けるわけないでしョ!」
「…演技でも人を抱ける奴っているんだよな」
「…何かあったよね、コウ」
確信のある声に目を伏せた。
その拍子に、接客の時はずっと我慢していた涙が出てきて、ソファーに落ちた。
尋斗は何も言わなかった。何も言えなかったのかもしれない。だが、俺のこの一言で賢いこいつは何があったのかも、どうしてデータが奪われたのかも推測してしまったんだろう。
スッ、と目が細まる。そして、直後の尋斗の一言に今度は俺が目を見開かされた。
「いいよ、抱いてやる」
「っ、は!?」
反応する時間すら与えられなかった。
尋斗が一体何を言ったのかすら理解できないまま、両手首を強く握られて頭上で一まとめにされる。ギリギリと痛いほどの力に顔を顰めて見上げれば、尋斗は本気の目をしていた。
ビクッ、と肩が大きく跳ね上がる。
鋭い眼差しはまっすぐ俺を見据えていて、情欲はなくても本気が滲みだしている。逃がさないという目に、痛いほど拘束してくる力に、覆い被さる体に、本能の警鐘が打ち鳴らされた。
怖い、嫌だ、と思った。
「ひ、ろと、…待て、っ、」
「嫌。つか、あんたが誘ったんだよォ?」
「待て、やめろ、…尋斗!」
「…ねぇ、逃がしてやるって本気で思ってる?」
捕食者のような目が笑った。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。