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綺麗な花には


「俺以外見てんじゃねぇよ、コウ」

「お前しか見ていないつもりだが、」

こんなのは常套句だ。

言葉ではそう言ったものの、入り口のドアが開いた音に反射的に振り返ってしまった。

実は今日がゲーム開始の一日目で、どんな奴が来るのかと若干そわそわしている。入り口から堂々と入ってきても見分けられるはずがないのに。

偽リストはデータ化して安全な場所へと隠しておいた。受験者も設定を知ったのはつい最近だろうから、警戒するとすればパソコンへの不正アクセスと新規の客などを装った新たな接触だ。

その分、この男を警戒する必要性は低い。

清宮慧(きよみや・けい)。

貿易財閥清宮グループの社長の御曹司でありながら、社長職の引き継ぎを拒否している変わり者だ。将来的には弟に社長を任せ、自分は補佐程度でのらりくらりと過ごしたいらしい。

一年くらい前、他の客に紹介されて入ってきて以来、すんなりとここに馴染んでは常連になっている。しかも、いつも俺を指名してくる。

クラブの方針としては男性も受け入れるが、初めて指名された時は随分と驚いたものだ。

だが、足しげく通ってくれては高い酒をなんの躊躇いもなしに入れてくれる。シャンパンの中でもドンペリが出てくるのは当たり前で、百万に近いフランスの名高い酒だってよく見る。男でも上客だ。

財力、権力と揃って、さらには美形だ。

切れ長の目は少しだけ鋭くて、普通の人よりもほんの僅かに色素が薄くて茶色い。ブラウンに染められた髪は少し襟足が長くて、光の加減で赤っぽく見えるのに傷んでいなくて艶やかだ。

仕立てのいいスーツの上からでも分かる程よく鍛えられた体は引き締まっていて、開かれた首元に見える喉仏と鎖骨がひどく色っぽい。

男らしい骨張った長い指に、クイ、と顎を持ち上げられて目が合った。そうすれば、切れ長の目はとても嬉しそうに目尻を下げた。

それだけで色気が出せるのだから羨ましい。

だが、それは狙ったような安っぽい色香ではなく、上流階級の育ちの良さを滲ませる洗練された色香で、俺でも目眩がしそうだ。

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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。