12.
「…安っぽいって怒られるかと思った」
波打ち際を歩きながら、清宮がぽつりと言う。
「高級レストランとか、ホテルのスィートルームとか、そういうのも考えた。…だが、無性にお前と二人で海が見たくなったんだ」
ざあ、ざあ、波が打ち寄せては引いていく。
ふと振り返れば、残してきた足跡は点々と続いていて、波に消されることはなかった。月に照らされて淡く光る泡が足跡のすぐ傍で引いていく。
「まぁ、確かにホストとしては不満に思わなければならないんだろうがな、」
「…っ、」
「だが、俺はこれで満足している」
金が世の中の全てだとは思ってない。
死に物狂いで金が欲しいわけでもない。
情報屋としての仕事でも、クラブの経営でもかなりの金が入ってくる。だから、言ってしまえば紙幣を燃やすように買う娯楽には嫌気が差していた。
金で愛を売るホストだからかもしれない。金で演技をする情報屋だからかもしれない。…とにかく、金では買えない特別な何かが欲しかったし、金に関係のない穏やかな時間をすごしたかった。
だから、清宮には感謝している。
この安らかな時間にはとても癒された。
(少なくともお前の笑顔が見れたんだよ)
いつもと違う笑顔。威圧感と色っぽさで警戒を隠した笑顔ではなく、年相応に若くて、少し悪戯っぽくて、なんの懸念もなく心から笑っているような柔らかい笑顔だったんだ。
きっとどれだけ金を積んだところで見れないそれは、何よりも貴重なんだろう。
(それを俺の接客で出せたらなぁ…)
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。