11.
「ほら、行くぞ」
車に鍵をかけて、清宮が似合わないビニールシートを持ちながら俺の手を引く。
夜の砂浜でビニールシートに座るだけのチープなデート。海にも入れないし、食べるものは安いコンビニ弁当や冷めたパン。
だが、一緒に食べるのは清宮で、一緒にいてくれる人も清宮だ。それだけで浜辺の風景はどんな夜景よりも美しく見えて、弁当やパンはどんな高級料理よりも美味しく感じた。
清宮がいるだけで世界が鮮やかになる。
それは絶対に誇張表現なんかじゃなかった。
「その卵焼き食いてぇんだけど、」
「お前は自分の弁当を食えよ、って、ちょ、あ、取るな!俺の卵焼き!」
「仕方ねぇな。ほら、ウィンナーやるよ」
「いらないし!」
と言いつつウィンナーを口に放り込む。
(何をやっているんだ、俺達は)
清宮も俺も高級料理なんて食べ飽きたはずだった。ずっと舌が肥えていると思っていた。なのに、みっともなく騒ぎながらコンビニ弁当のオカズの争奪戦を繰り広げている。
清宮の笑顔を見ながら食べたそれは、今まで食べたどんなものよりも格段に美味しかった。
バカみたいに騒いだのはいつぶりだろう。
言葉の裏、表情の裏を勘ぐらずにそのままの形で捉えて、言いたいことを言って、なんの打算もなく笑ったのはいつぶりなんだろうか。
なんでもなさそうな時間が胸に沁みた。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。