10.
キスしたい時に許可を求められたことはなかった。
清宮はいつだって勝手に噛みついてくる。
清宮のキスを自然に受け入れる自分に、それこそ仕事だと思っていない自分に驚いた。嫌悪感や義務感はなく、むしろ求めてさえいる。
(今日くらい流されてやるよ)
そわそわと不安そうにしながら俺の反応を窺っている清宮を鼻で笑ってやると、頬に添えられたままの手に自分の手を重ねて、目線で催促する。
普段は自信で満ちあふれている切れ長の目が、ふっと安堵を浮かべる。そして、再び近付いてきた唇にまた目を閉じた。
直後、優しい接触。
触れることさえ躊躇われる宝物を相手にするような優しいキスだったが、それが優しさを失うのに時間はかからなかった。すぐに舌が口内に侵入してきて、瞬く間に激しいキスへと変わっていく。
口の中を犯すように奥へ奥へと入ってきて、唾液を交えながら舌を絡めて、上顎をくすぐる。
いつもと違うことはと言えば、清宮の余裕が少なくなっていることと、俺がいつになく積極的だったことだ。絡めてくる舌を自ら追いかけて、舌先を甘く吸って、唇で清宮の下唇を甘噛みする。
「ん、…っは、」
「コ、ウ…っ、」
くちゅ、くちゅ、と交じる唾液の音。
後頭部に回された手も腰を固定する腕もいつものことだったが、今日は俺も清宮の背中に腕を回して抱きついていた。きゅ、と少し力を入れれば、それに応えるように腰に回された腕の力が強くなる。
散々貪りあって、味わいあって、舌と舌が離れる頃には銀色の糸で繋がっていた。最後にバードキスをすれば、その糸がぷつりと切れる。
「いつもこれくらい積極的だといいんだが…」
「今日だけは特別だ」
唇を舐める舌が、とても色っぽい。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。