6.
流れる水のような穏やかな音色。
クラブで流しているものと全く違う系統である曲だったが、とても安らぐ。
しばらく会話はなかった。会話がなくても心地いい沈黙だった。それはクラシックが流れているからかもしれないし、俺の隣に座って運転していたのが清宮だからかもしれない。
視界を奪われて、どこに行くかも分からない車に乗る。警戒心がないと言われればそれまでだったが、清宮なら大丈夫だと思った。
ふと車が上に上がっていく感覚がする。
(高速?)
まぁ、どこでもいいか。
二人っきりになれる場所なら。
「お前がそこまで人混みが苦手だったとはな…。よく人の多いクラブに来たものだ」
「人混みが苦手っていうか、…お前と二人っきりになりてぇんだよ。クラブでもどこでもお前に会えたら幸せなんだがな、…俺も欲張りなんだよ。たまには誰にも見せずに独り占めしてぇの」
「俺の目にはいつもお前しかいないが?」
「…うわ、分かりきったリップサービスで嬉しくなるとか、俺、本当に末期かもしれねぇ」
その声は本当に嬉しそうにはにかんでいた。
視覚の働かない真っ暗な世界。外界から隔たれた暗闇で与えられるのはクラシックの音楽と清宮の声だけで、少なくても今この瞬間だけは俺の世界の全ては清宮であるような気がした。
二人っきりの車内。目的地についても二人っきりなんだろう。俺も思ってしまった。
今夜は清宮しか見たくない、と。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。