5.
ホストとしては思う。
別に客が何に対してどんな表情を見せようと結論は店に貢いでくれたらいいじゃないか、と。
だが、それでは納得できない部分があった。
もやもやする。珍しい清宮を見れてさっきまで嬉しかったのに、途端に気分が沈む。自分でも理由が分からなくて、この気持ちがバレないように窓の外を見た。夜の街が後ろへと流れていく。
「コウ、そこにアイマスクがあるから着けとけ」
俺の気持ちに気付いていない清宮の声。
「…なんで?」
「道中でどこに行くか分かったら面白くねぇだろ。ついたら教えてやるから」
「仕方ないな、お前は」
見回すとアイマスクは簡単に見付かった。三角の耳がぴょこっと飛び出ている黒猫のアイマスク。目の位置に瞳孔の鋭い黄色の猫の目が描かれたそれは新品らしく、まだ袋が開封されていなかった。
袋から出して目元につければ、ぷっ、と耐えるように控えめな噴き出す音がした。
「笑うな!」
「笑っ、んく、…てねぇし、」
「いや、絶対に笑ってるだろ!」
「笑…ってねぇって。はっ、はは、お前外すなよ?外したらお仕置きだからなぁ?」
「な、横暴だ!」
今すぐアイマスクを外したかったが、グッと我慢してふかふかのシートに沈みこんだ。
高級車だけあって揺れはほとんど感じない。外の喧騒も入ってこない。首元にある低反発の枕を堪能していると、穏やかなクラシックが流れ始めた。
[ 93/224 ]
prev / next
[ mokuji / bookmark / main / top ]
騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。