その頃からだった。黒髪を染め、硬い口調をわざと緩いものにして、きっちり着ていた制服をだらしなく着崩すようになったのは。
争う意志はないと告げるつもりだったのかもしれないし、出来のいい弟と比べられるのが嫌だったのかもしれない。
とりあえず、高校に上がる頃にはそのスタイルが癖になっていて、チャラ男会計だなんて呼ばれていた。
生徒会の仲間は良家揃いだった。だが、俺の苗字に媚びることもしなければ、良家にあるまじき態度だと軽蔑されることもなくて心地よかった。
そして、弟は日に日に成長していって、日に日に優秀になっていって。
弟は悪くない。
両親だって悪くない。
だが、兄さんと懐いてくる弟に、変わらず愛してくれる両親に、いつしか居心地の悪さを感じ始めていたのも確かだった。
だから、俺は言ったんだ。
高校を卒業したら一人暮らしをしたい、と。
これであの幸せな家族の中にいなくて住むし、時が経つにつれて本来あるべき距離が生まれると確信しての頼みだった。
両親は渋ったが、滅多に頼み事をしない俺のわがままについに折れた。
寂しそうなその目に後ろ髪を引かれたのは確かだったが、もうこれ以上そういう目を向けてほしくないというのも本音だった。
まるで哀れみのような愛情。
今思えば、両親は本当に俺を愛していたんだろう。俺を我が子だと思っていた。
捻くれていたのは俺の方で、努力では拭えない劣等感を弟に感じていて、自分を愛してくれた人達を自分から拒絶してしまった。
そして、今に至る。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。