この日が来ることは前から知っていた。
孤児院育ちの、誰が産み落としたのかも分からない俺を養子にしてくれた両親には、本当に感謝しきれないと思っている。
子宝に恵まれない彼らはただ単に家の跡取りが必要だっただけだが、それでも我が子同然に愛してくれていた。
とても優しい両親だった。
良家だったにも関わらず、血も繋がっていない俺に溢れるほどの愛情を注いだ。
誕生日には母がケーキを焼いてくれて、父がプレゼントを用意してくれる。
毎年の運動会には仕事を休んだ父がビデオカメラ片手に応援に駆けつけ、苦笑いの母は俺を見付けると手を振ってくれる。
夏ごとの家族旅行も、桜の季節の花見も、大切な思い出はいくらでもあった。
だが、長く続くことはなかった。
俺が小学校に上がったばかりの夏、弟が生まれた。その子は俺とは違って、きちんと両親から生まれた子だった。
初めての子供に両親は喜んだ。
初めての弟に俺だって喜んだ。
だが、人間とは皮肉なもので、いや、合理的なもので、他人の子供よりも自分達の本当の子供の方がよほど可愛いらしい。
言葉はなかったものの両親は明らかに俺を跡取りから外して、弟を跡取りにしようとしていた。それくらい分かっていた。
だが、彼らは本当に優しくて、俺から愛情を取り上げることはしなかった。今まで通りに精一杯、全力で愛してくれた。
それは罪悪感から来たのかもしれない。
重苦しい習い事の代わりに、好きなことを習っていいと言われた。誕生日も、卒業式も、微笑みながら祝ってくれたんだ。
弟が出来たとしても両親は愛してくれる、だなんて最初は無邪気なことを考えていたが、成長するにつれてそれが間違いだと知った。
俺は明らかに邪魔者だった。
幸せな良家に混じった、…異物。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。