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10.


随分と気分がいい。とても落ち着くんだ。

風に包まれて、ここが自分のいるべき場所だって感じる。傍にいる風の精霊達と、自分の風。気分がとても穏やかに凪いでいく。

気のせいかもしれないが、全てがとても遅く見えた。悔しそうな表情で俺を睨み上げる猫の行動も、イチルの攻撃を受け止める筋肉質な男も、…レイロさんと戦った時はあれだけ速く見えたイチルの攻撃でさえも。

カタリ、と対戦相手の男が腰にぶら下げたプレートが防具にあたる。イチルの位置からは取れないから、男はプレートに注意してない。

(このスピードなら簡単に取れる)

それからの行動は速かった。

男の腰に向かって飛ぶ。たいして翼に力を入れなくても、呆気ないほど簡単に着いた。鋭い刃のようになった風でプレートを繋いだ紐を切断し、落ち始める前にプレートを掴む。

男は気付かずに戦っていて、偶然こちらを見たイチルと目が合って、彼だけが驚いた顔をした。

イチルが素早く間合いを取る。剣を鞘に納めたことにどよめきが広がったが、その手に二つのプレートを乗せれば、不可解そうなどよめきは息を呑む音へと変わった。

キラキラと日に反射するプレートが二つ。それを掲げた時、勝利の音が晴天に放たれた。

「…どうやってあの猫のところから一瞬であそこまで移動したんだ?」

『一瞬?一瞬じゃなかったよ』

「いや、一瞬だ。気配に注意してたのに、お前は一瞬であいつの腰のところに来た。紐はどうやって切った?風で切ったんじゃないだろうな、」

『そうだけど、どうかした?』

イチルが眉を寄せる。不機嫌というよりは、むしろ理解できないとでも言いたげだった。

男はプレートを奪われたことを受け入れられずに何度も探した後、放心状態になっている。猫も口を半開きにしてぼんやりと俺を見ていた。

「…それは間違いなく攻撃魔法だ」

その呟きが歓声にかき消されることはなかった。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。