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9.


風の動きを感じる。

だが、この風は精霊じゃない。

この風は俺の意思で動いている。誰かに頼むのではなく、誰かに命令するのでもなく、まるで手足のように口に出さなくても思うだけで自由自在にコントロール出来るんだ。

猫が怖い、来てほしくない、と思うだけでまるで自分の体のように使役出来る風が透明な壁を作る。自分と風の境界線が曖昧になっていく。

そう力を入れずに羽ばたかなくても、行きたいところに行ける。もっと自由に、もっとなめらかに、もっと速く、…何よりも速く。

『私が間違っていたわ。空のものに空中戦を仕掛けるなんて、…バカげていたわね』

ピリ、と空気が張り詰めた。

そして、ピンク色の猫から炎が上がった。別に大きい炎じゃない。イチルの召喚で現れた巨大なトカゲに比べれば、ずっと弱くて可愛い炎だ。

それに理由は分からないが、俺は頭のどこかで炎のあしらい方を知っていた。風は炎を燃え上がらせる。だが、逆に言えば空気がないと炎は存在することが許されない。

消えろ、と念じるだけで充分だった。

『にゃっ!?』

炎が瞬く間に消えた。地面には何かが燃えた黒い跡が残っているのに、炎がない。何度かまた炎を出そうとしているらしいが、現れる気配はなくて見る見るうちに猫の顔が驚愕に染まっていく。

『な、なんでよ!?あなたEランクじゃないの!?私はCランクなのよ!?』

『俺は風属性だから?』

『それが理由なわけないじゃない!風と炎の相性は悪くないし、私はあなたより二つもランクが高いのよ!?こんなことって、』

噛まれる心配がない高さまで飛んだ。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。