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8.


開始の合図と同時にイチルが剣を抜く。さすがに第四試合まで来て鞘に入れたままの剣で勝負に出るつもりはなくなったらしい。

俺はすぐに飛んだ。ピンク色の猫が素早く走ってくる。その化け物は俺の少し前で跳び上がった。驚異のジャンプ力で、鋭い牙と爪を紙一重で避けた。

因みに、第三試合まではイチルでポケットに入っていたプレートは、今は俺が持っている。

強い相手なら俺を囮にして隙を見て倒す、とか人でなしのイチルは無慈悲な計画を立てたが、結局釣れたのは化け猫だけで、筋肉マッチョは恨みを晴らそうとイチルしか見ていない。

『ちょっと、降りて、きなさい!ずっと、飛ぶなんて、卑怯、よッ!』

『俺だって疲れるんだよ!』

『そのプレートを、よこしたら、楽に、してあげても、いいのよ、坊や?』

『それ殺すって言ってない!?』

あ、今、尾羽に爪が触れた。

イチルの方からは金属と金属がぶつかり合う容赦のない音が聞こえるから、助けを求めるのは無理だ。そもそも猫ごときで助けを求めたくない。

『よそ見はダメよ、坊や』

イチルを見ていると高度が下がったらしく、タイミングを見計らった猫に思いっきり跳びかかられる。ヤバイとは思っても、高く飛ぶのが間に合わない。牙が、目の前に迫ってきた。

反射的に目を閉じた瞬間だった。

『きゃあ!?』

悲鳴の直後、振り落とされたように猫が落ちた。着地は上手く出来たようだが、それ以上跳ぼうとはせず耳を伏せて緊張した目で俺を警戒してくる。

何が起きたかはよく分からないが、とりあえず体が軽くなった気がした。今までは風の精霊の力を借りて飛んでいたが、精霊がすっと脇に引いて自分自身が風になったかのような不思議な感覚。

分かりやすく言えば、飛ぶのが上手くなった。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。