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5.


「ところで、余談なんだが、」

なにやら怪しげな呪文を唱え始めた男を遮って、イチルが言う。遮られたのは彼なのに、その男は律儀にイチルの言葉を聞いていた。

「家を掃除する時、きちっと片付けてたもんがズレてたら嫌じゃねぇ?」

「分かります!きちんと定位置にあるべき物が乱れている!!耐えられませんよね!鏡の角度とか、ティーカップの列とか!」

「そ、…そうだな。きちんとしたいよな。俺、家出る前とか何回も鍵とか財布とか確認すんだよ」

「私もですよ!鍵、財布、戸締り、バック、雌鶏、火の片付け、掃除、」

「で、…雨戸閉めたか?」

その一言に男はさっと顔を青くした。

「あぁ!忘れていたかもしれません…。私としたことが、…雨戸を確認し忘れただなんて。今すぐ確認してきます!」

「おう、行け」

「教えてくださってありがとうございます!」

どうでもいい。雨戸なんてかなりどうでもいい。

今日は雨なんて降りそうもない快晴だし、そもそもここ最近雨なんて振ってないから雨戸を使う機会もなかっただろう。閉め忘れたところで泥棒が入るとは思えない。

だが、男はそう思わないらしく、急いだ様子で歩いていった。イチルが笑顔で手を振っている。かなり黒い笑顔だった。そして、男はフィールドの端を表すラインを自ら踏み越えていった。場外退去。

パン、パン、と終了の合図が鳴り響いた。

因みに、男は勝負の結果よりも自宅の雨戸も方が大切らしく、負けたのに退場口付近で笑顔で手を振ってきた。それをイチルが振り返す。

『あっらぁああん!?もう終わり!?やぁねぇ、まだ見たいのにッ!あぁあん!あたしもう行っちゃうわよ!?』

雌鶏の声が小さくなって、ついに消えた。

「雌鶏がストレスの原因じゃなかったんだな」

『…自分が王子様だって自覚ある?』

こうして初日の二試合は圧勝で終わった。

意気揚々と得意げにしているイチルに反して、二日目の参加権を表す銀色のプレートをくれた人の目がじとりとしていた。ルール違反はしていない、と開きなおることにした。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。