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3.


「いや、兄さん、それは無理があるんじゃ…」

夕暮れの闇に紛れて駆け込んだ店の小太りの店主は、参ったように眉を寄せながらヒゲを撫でた。

俺もその反応で間違いはないと思う。だって、店を閉めようとした時にフードの男が駆け込んできたかと思えば、くしゃくしゃになったチラシを取り出して申し込みたいって言うんだから。

しかも、ポケットから小鳥を取り出した。聖獣とは思えない登場に、聖獣とは思えない扱いだ。

「兄さんみたいなのにゃきついよ。悪ぃこたぁ言わねぇから、痛ぇ目見る前にやめなって」

「参加資格は満たしたが?」

「確かにそうだが…、そいつはどう見ても弱ぇランクだろ。せめて強めの聖獣にした方が…」

「俺はこいつとじゃなきゃ出ねぇ。それに、こいつはこう見えて実は強ぇんだから」

ほら、と軽くお尻を叩かれる。

本当は文句を言いたかったが、ここは俺達の四日後の宿のために我慢することにした。自分が戦えることを証明すべく、喋ること以外普通の鳥と違いがない俺は、その場で必死に翼をパタパタさせて店主に風を送った。

店主の目がさらに可哀想なものを見る眼差しになったのを見て、せめて飛べばよかったかなと後悔した。だが、もう後の祭りだ。

もう一度止めようと店主が口を開くが、先手を打ったのはイチルの方だった。

「頼む…っ。小さい頃からこの大会に出るのが夢だったんだ。なのに、俺達はよそに引っ越しちまって、それ以来…、」

「兄さん…、」

「親父はずっと俺を応援してくれて…、っ、だが、病気になっちまって…、親父に土産話でもと思ったんだが…。そうだよな、俺じゃ無理だよな。帰ったら親父になんて言おう…」

俯き、手で顔を覆い、肩を震わせる。だが、いつもと変わらないような冷静な声が棒読みすぎていて、もはや三流の芝居でしかない。

これは店主をなめすぎだ、と思って鼻で笑いかけたが、店主の目にはまさかの涙が光っていて俺の方が絶句させられた。バン、と鼻息の荒い店主がカウンターを叩いた。

「応援するぜ、兄さん!」

フードのしたから見えた顔が、愉快げに笑った。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。