因みに、イチルとカルナダさんが兄弟だったことは、実は特に隠す必要はないらしい。
家名を変えてもイチルという名前はそのままだし、何より元第二王子の顔を知っている人は多い。隠そうとしても無理というもので、イチルも顔見知りの騎士達やレイロさんと会った。
結局、病死という設定は系譜の上にある第二王子を終わらせる口実でしかないのだ。
だが、戴冠式、調印式、そして結婚式と続くこの数日は多忙になるだろうから、混乱を防ぐためにしばらくは隠したいそうだ。
そして、兄弟と知られても公の場では立場上もうカルナダさんを兄様とは呼べない。
それがたまらなく寂しい。
と、イチルの眼差しが言っていた。
────この数日はまだしも、バレたら騒ぎは免れないよ。諸国にどう説明するの?
────正直に言うしかねぇだろ?
────フェニックスのこと?
────それもあるが、
少しの空白。その後の言葉には驚かされた。
────セットレイア家から離れて、風の王の傍で一生生きていくことを選んだ、って。
────はっ!?
反射的にイチルに振り返った。
だが、慌てた俺とは違ってイチルは相変わらず涼しげな表情で、俺と目が合うと穏やかに煌めく鮮やかな紅蓮の瞳が優しく微笑んだ。
そして、目立たないように俺を抱き寄せると耳元で囁いた。形のいい唇から出た低く色っぽい声が直接鼓膜を揺らして、耳が熱くなる。声に出さなくてもいいのに。愉快犯としか思えない。
「その時は、俺はお前のもんだって世界に公言してやるよ。愛してるって全力で叫んでやる」
「だ、黙ってよ!」
慌てて耳を覆えば、楽しそうに笑う声。
イチルを睨んだが、返ってくるのは愉快そうな眼差しだけで悪びれた様子はない。
イチルの出身が世界にバレるのは時間の問題で、そう遠くはないだろう。その時が来たら彼は迷わず有言実行しそうで怖い。…だが、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しいとも思えたんだ。
イチルは俺ので、俺はイチルのだ。
それを高らかに叫んで、世界に知らせたい。
[ 651/656 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。