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17.


「兄…、カルナダ殿下」

イチルが一歩前に出る。

いつもの癖で兄様と呼びかけて、急に呼び方を変えたのに気が付いた。系譜から外された今、公の場で兄様と呼ぶのは避けなければならないが、身内だけの時は呼び方を戻すと思う。

殿下、とイチルは呼んだが、明日の戴冠式にはもう陛下と呼び方を改めているだろう。

「この指輪はお返しします」

イチルが首からチェーンを外す。

チェーンから取り外したのは、旅に出る前にカルナダさんから預かった指輪だった。セットレイア王家の紋章が入ったそれは王家代々に受け継がれた指輪で、王位を象徴している。

「これは殿下が持つべきです」

「あぁ、そうだな」

「…ただ、」

「イチル?」

イチルが少しはにかんだ。

恥ずかしそうに笑って、だが、少し時間が経った後に決意を固めたように言い放った。

「…チェーンはいただけませんか」

「チェーン?」

「殿下から頂いたものなので、」

カルナダさんが僅かに目を見開いた。

イチルも子供っぽいと思う。カルナダさんがくれた物を残して大事にしようだなんて。

確かにサファイアの瞳を失い、王家での居場所を失い、互いに国王という立場で簡単に会えるわけじゃない。だが、この兄弟の繋がりがそんな理由で簡単に切れるなんてありえない。

血筋は家族である証明にはならない。同様に瞳の色も、立場も、他人の評価も大事じゃない。

お互いの心が認め合えば家族なのだ。

その点、この二人の絆は強固なものだ。

カルナダさんが仕方なさそうに、だが、嬉しそうに微笑む。昔の冷えきった態度のイチルに慣れていただけに、今の彼に照れていた。

「珍しいな。お前が私に甘えるなど」

「なっ、甘えてなんか…!」

「ふふ、それはお前が持っていなさい」

「…ありがとうございます」

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。