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16.


アクセントに白金(プラチナ)の刺繍。

だが、胸元にウィンソフィリアの紋章はない。始祖は人間より遥か高位に位置し、人間の紋章を身に付けることは不適切なのだそうだ。だが、我が儘を言い続けた俺にホーリエはついに折れ、実はこの真っ白い軍服に紋章が隠されている。

外からは見えない上着の内側。心臓の位置。そこにひっそりと刺繍されたお揃いの紋章。

それだけでも俺はとても嬉しい。

因みに、軍服もマントも白手袋も、俺は上から下まで真っ白でどこの新郎だと問いたい。違う色があるとすれば、肌の色と瞳の翠緑だけだ。

アクセントである白金の刺繍もイチルの金糸ほど目立たず、日に当たる角度によってキラキラと煌めく程度だ。重々しくずっしりした生地の軍服と違い、刺繍は華やかで柔らかい。

腰から自慢の翼を出したまま、カルナダ様に向き直る。カルナダ様は微笑んでくれた。

「まったく、あなたって方は…。私を様付けで呼ぶのはもうよしておくれ」

「えー」

「あなたはもうあの日の雛じゃない。立派な王だ。イチルも私と同等の地位である以上、契約聖獣としてもこの呼び方は相応しくない」

「…じゃあ、カルナダさん?」

そう呼ぶと優しく頷いてくれた。

「呼び捨てがいいが、…妥協しよう」

カルナダさんに向きなおる。

「カルナダさん、おめでとう」

王座につく彼に贈る祝いの言葉。

だが、その言葉を受け取った彼は苦笑いを浮かべた。俺の言葉が気に入らなかったんじゃない。そうじゃなくて、本当はドラゴンから受取りたかった、もしくはドラゴンと共に受取りたかった言葉には、優しい笑顔でも苦渋の色を隠せない。

彼はドラゴンと同じ表情を浮かべた。愛情に対する渇望、燻って消えない熱情、愛せない悔しさ、心を引き裂かれそうな切なさまで。

だが、それでもカルナダさんは微笑んだ。

「ありがとう」

たった五文字。

秘められた思いはなんだろう。

純粋な感謝かもしれないし、王冠の重みを被って生きていく覚悟かもしれない。だが、俺には寄り添って生きていける俺達が羨ましくてたまらない、と言葉の裏の裏に聞こえた気がした。

(大丈夫。あなたにもその日は来るよ)

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。