「お待ちしておりました、ウィンソフィリア国お、…う、…へ、いか…。…え?」
城門が開いた先、城に繋がる白の石畳で整えられた道の左右に騎士団が整列していた。漆黒の軍服を着た彼らは胸の前によく磨かれた剣を掲げ、場面はまさに荘厳の一言に尽きた。
右の一番前の位置には近衛騎士団長であるレイロさん、後ろにはペガサスがいた。
レイロさんは相変わらず凛々しかったけれど、イチルを見た途端に硬直して、途切れ途切れの語尾はちょっと間抜けで笑えてくる。
「久しいな、レイロ」
「…イチル様、でいらっしゃいますよね?」
「あぁ、俺だ」
全く否定しようとしない肯定。
イチルが白馬から降りる。まるで降り積もった雪の化身のような純白で毛艶のいい白馬は、レイロさんが若い騎士に預からせた。
イチルがマントを翻す。マントは真冬の銀景色に埋もれて見えなくなりそうなほど純粋な白をしており、淵には毛皮がついてもふもふだ。フードを被って、あの馬に跨って雪景色で隠れん坊をしたら見付けられる自信はない。
それに反して、下に着ている軍服は濃緑色で、落ち着いている割に地味じゃない。
布地はしっかりと重圧感のある上等なもので、袖先や襟元など場所には金糸が映える。繊細にあしらわれた二重の金の鎖は肩と襟元を結び、ボタンの一つ一つに趣向が凝らされている。
重みのある濃緑と華やかな金。
一番目を引くのは左胸の刺繍。ウィンソフィリア王家の紋章が堂々と存在していた。
翼を広げた鳳凰の紋章はイチルが考えたもので、ホーリエが町一番の刺繍師に依頼した。羽の一枚一枚、風になびく僅かな尾の乱れすら見事で、今にも飛び立ちそうだった。
(…うわ、照れる)
王冠こそしていないが、鮮やかな金髪の輝きは王冠になんて全く劣りはしない。
軍服で威厳は出てるのに、白馬とマントの綺麗さはお伽話の中の王子様そのもので、さらに白手袋から覗く色っぽい手首。腰に剣を下げた彼は、それはもう力強く凛々しい。
さらに、色っぽく妖しい魅力のあるルビーの瞳が、柔らかく細まるのだから人気絶大だ。
道中の黄色い悲鳴で俺はもう疲れ果てた。
だが、繰り返す。
(イチルは似合ってるの、…イチルは)
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。