イチルとカルナダ様のギクシャクした兄弟関係は、昔に比べて大きく改善された。主に、イチルの態度が大幅に柔らかくなった。
彼の劣等感が消えたのと同時に、カルナダ様と比べず、自分らしくあるべき方法を見付けたんだと思う。魔法方面ではカルナダ様の足元にも及ばないが、見事に吹っ切れた。
カルナダ様が帰る前の数分でも分かる違いで、とても顕著に現れていた。
カルナダ様も嬉しそうだった。
で、次は俺達に関してだ。
俺達は魔術学校を開くことにした。
フレイから預かった数十万もの蔵書。フェニックスの魔力によって千年もの月日を経たにも関わらず保存状態のいいそれらは、既に絶版となった貴重な書物がほとんどだった。
確かに貴重だが、フレイが大切にした知識は誰でも平等に得られるべきだと思う。
そう考えての俺達の決意だった。
だが、そこで問題が起こった。所属する国がないのだ。千年も加護に呑まれていた広大な土地は、誰の所有物でもなかったのだ。それはフレイの国だったが、今、彼はいない。
どこかの国に統合されるのも嫌で、結局、学校を設立する話は膨れに膨らんだ。
ついには建国になったのだ。
既に勢力図が決定した大陸に、新興の国、それも多くが砂漠といえども、かつてのフレイの国全てを領土とする広い国がぽんっと現れたら反対勢力が現れるとも危惧したが、それはまったくの杞憂だとすぐに思い知らされた。
新興といえども、俺、風の王が味方についている国に手出しできる強者はいなかった。
さらに、意外なことに、セットレイア王家は俺達の国を認めると公言した。俺の存在と軍事大国の承認、その二つが揃ってしまえば、建国は思ったより遥かに簡単に進んだ。
なら、名前はどうするか。
国王の座はイチルに任せると満場一致で決定したが、今のイチルには家名がない。
だから、俺が決めた。
ウィンソフィリア(Winsophilia)。
俺の風(Wind)から最初の部分を取り、ラテン語を語源とする単語、知恵(Sophy)が続く。博識の王、と俺の呼び名の一部をイチルに与えたかった。最後はセットレイアと同じ語尾。少しでも彼に家族との繋がりを残したかった。
ウィンソフィリア王国。
イチル・ウィンソフィリア。
建国したばかりの新しい国は、それでも立派に世界地図に名を刻んだのだ。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。