「早く行くよ!これが終わったら、僕、ツェトと二人っきりで旅行に行くんだから!」
久々に見上げる立派な城門。
約半年ぶりに見る王城の景色だった。旅に出る前、豊かな木々の葉は鮮やかな黄色や赤をしていたが、雪解けを迎えて久しいこの季節、枝には黄緑色の柔らかい若葉が息吹いていた。
ほんのりと寒さを残した季節。春の一歩手前の少し肌寒い風が、そっと頬を撫でた。
あの戦いの日から既に三ヶ月。
俺達を取り巻く現状は目まぐるしく変わった。
まず、カルナダ様は長く政務を空けていられないという理由で、あの後すぐに王城に帰った。来た時と同じようにユニコーンが送っていったが、来た時と違って帰りは一人だった。
王家から離れたい、というイチルの要望への返答をカルナダ様は一旦保留にしたが、数日後送られてきた手紙は承諾の返事だった。伝統と血筋を重視する王家にとって、サファイアの瞳を失ったことは致命的だったのだろう。
だが、破門ではなく旅での病死と公表されたから、イチルの名前は系譜に残る。
その手紙を読んだ時のイチルの表情が柔らかかったあたり、彼は彼なりに家族からの愛を感じ、その思いに浸ることができただろう。
そして、カルナダ様がドラゴンと契約を切った話は大陸中を騒がせた。第一王子が契約聖獣、それもSSランクを失ったことに人々は驚愕したが、彼は無事に次期国王に決まったらしい。
セットレイア王国の新王。
その決定がなされた理由はもちろんイチルのこともあるが、契約聖獣の有無に影響されないカルナダ様の人柄と実力にあった。
国中がカルナダ様を新王と認めたのだ。
因みに、戴冠式の前に新たな聖獣と契約しようと試みたらしいが、召喚の儀式には何も現れなかったと噂に聞く。俺に言わせれば至極当然だが、この理由はまた後ほど話すとしよう。
だが、いい話ばかりではなかった。
カルナダ様が婚約したのだ。
相手は前に言っていた隣国の末の姫。噂に聞く限りそれは美しく淑やかな姫君で、お似合いの二人だが、俺は政略結婚だと知っている。
婚約の式は既に終えており、結婚式は戴冠式の三日後に執り行うそうだ。国中どころか大陸中がお祝いムードだったが、カルナダ様の心中を思うと俺もイチルも決して喜べなかった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。