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5.


「どこへでも好きな場所へ行け」

「…あ、あの、どうして?」

「別に理由なんてねぇけど」

(そんな格好つけた嘘吐いちゃって)

イチルが彼を助けた理由は、多分、ここはまだ国内であったこと、彼が虐げられる理由が理不尽だったこと。そして、この王子様はあまりにもお人好しだったことだと思う。

だが、ここで茶化すとイチルが拗ねるし、身分がバレるかもしれないから、何も言わないことにした。

とりあえず、美人な彼の頭の上に着地してみる。だが、俺の足がクリーム色の柔らかそうな髪に触れる直前、とても嫌な感じがして慌てて飛び立った。

(うわ、何これ、気持ちわるっ!)

とても名状しがたい感覚だ。

何かが体に絡みつくような、見えない縄のような、いや、拘束力を持ちながらも自由に変形出来る何かが体に触れた。一瞬、音が消える。

…それに攻撃の意思はなかったが。

(なに、この人。なんかおかしい…)

全身の鳥肌が総立ちになり、背筋に悪寒が駆け抜ける。耐えられないほどではないが、それでも嫌でイチルの肩に戻った。

「これからは金なんか借りんなよ」

「ありがとうございました!このご恩は一生忘れませんから…!ありがとうございました!」

だが、彼におかしいところはない。

いまだに体の中に残った感覚が嫌で俯いていた俺も、さっさと宿に向かったイチルもう振り向かなかった。だから、見えなかったんだ。

儚くてか弱い雰囲気をしていたその美人が一瞬のうちに妖艶な空気をまとったことも、全ての傷が消えていったことも、…ふわふわと漂う金貨の袋が彼の手の中に収まったことも。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。